捕食者の目
捕食者の目





幸せになりたいから、別れよう。


やっとの思いで喉元から絞り出したその言葉に、彼は顔色ひとつ変えずに頷いた。一晩寝ずに考えた別れの台詞に、ほんのちょっぴり混ぜた皮肉や期待も、吐き出されて呆気なく空へと消えてしまった。

あなたと一緒にいても幸せになれないから別れよう。そういう意味で言ったってことも、きっと彼は気付いていただろう。そう言い捨てたあとで、彼が「じゃあ幸せにしてみせるよ」なんて、そんなことを言ってはくれないこともわかっていた。だけど、嘘でもいいから引き止めて欲しいとも、きっと私は思っていた。

だけど、そんな風に簡単に望みが叶うくらいなら、そもそも彼とさようならをする必要はない。叶わないから、望みがないから、さようならなのだ。それもわかっていた。だから泣かなかった。

最後にはにっこり笑って、バイバイって背中を向けてやった。今まで背中を見送るのはいつも私の役目だったから、最後くらいは、まだ少し風の冷たい放課後の屋上に、置いてきぼりにしてやった。

これでよかったんだと、本当にそう思っていたし、今でもそう思っている。


あれから、二週間。


私は今、人間というものがどれだけ厄介な生き物なのかを思い知っている。
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