君と花を愛でながら


この頃、毎日の様に閉店間際に来る女性のお客様がいる。


その人は一瀬さんと片山さんの知り合いみたいで……特に一瀬さんには特別な人のようだった。


なぜって、その人がまだ客席に居ても、マスターはさらりといつものように私に言う。



『今日はもう、仕舞いにしましょうか』



と。


彼女……雪さんがマスターの目の前でカウンターに座っていても、いつもそれほど話が盛り上がってる風でもない。


雪さんが話しかけて、ぽつぽつと短い会話をしては、すぐに途切れる。
彼女は少し肩を竦めて、また珈琲の香りを楽しむ。


そんな空気が、酷く二人に似合っていて、まるで透明なアクリル板に阻まれたように私は二人に近づくことも会話を聞き取ることすらできなかった。


今日も多分、夕方になるといらっしゃるんだろうな。


片山さんが作ってくれた今日の賄いも、いつも通り美味しいのにあまり箸が進まない。
気が付くとつい、一瀬さんと雪さんのことを考えてしまう。


もしかしてあの人が、片山さんの言ってた一瀬さんの別れた婚約者さんだろうか。
じゃあなんで、今頃急に店に来るようになったんだろう?


気になって仕方ない。
知りたくて仕方ない。


そんな立場でもないのに、なんで私こんなに一瀬さんのことばかり知りたいんだろう。



『隣に立つのは、やっぱカッコイイ大人の女が似合うよな』



雪さんは、とてもカッコイイ大人の女性だ。
子供っぽい私と違って。


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