タイガーハート
大切な人

制服の袖に慣れた手つきで腕を通す。

昨日の病院の検査でも、幸いどこにも異常が無かった。

《ほら、言ったでしょ?石頭だって》
無事を報告した電話で、伏見にそんなことを言われた。


それを思い出し、口元が綻ぶ。
早く、会いたい。


『とらー?』
居間から声がする。

顔を出すと、母が包みを持って立っていた。
『あの、お弁当…作ったんだけど…

嫌ならいいのよ、母さん食べるから!』


母なりに頑張っているらしい。
なんせラーメンくらいしか作れない母さんだ。

エプロンは汚れていて、格闘した様子が伺えた。


「俺に作ってくれたんだろ?
…ありがと」

その言葉を聞いた途端、母の顔が少し歪んだが、すぐに笑顔に戻る。

ぐすっと鼻をすすり、母は笑う。
『こ、ここに置いておくね!』

包みを鞄に入れると、玄関へ向かう。
『気を付けてね!』
母さんと祖母が見送りに来る。

「いってきます。

…あ、母さん」

半身だけ振り返る。

『ん?なに?』


「また今度、連れてくるから。

…彼女。」

『上手く行ったの!?よかった!』
嬉しそうに母さんが笑う。


『いってくる』
玄関の戸を開けると、陽だまりの香りがする風が吹き込んできた。

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