月下美人が堕ちた朝
今あの道を通るには、あまりにも思い出が深すぎるから。

遠回りしたって良い。

それに今日は少し、歩きたい気分だ。

あたしは更にi-podのボリュームあげ、自分を違う世界へと追いやる。

これは、小さい頃からのあたしの癖だ。

母親に怒られたり、理不尽に殴られたとき。

ピアノが弾けなくなったとき。

学校の先生に、変人扱いされたとき。

友達に無視されたとき。

今自分が生きている世界とは別の空間を創り、その中へ逃避する。

その空間は限りなく優しい時間が流れ、あたしは「カイドウアミ」という人間を放棄できる。

小さい頃、自分を放棄している間に本来の世界で自分が何をしているかは分からなかった。

分からない、と言うよりかは、覚えていない、という表現が正しいのかもしれない。
< 39 / 196 >

この作品をシェア

pagetop