月下美人が堕ちた朝
20060725pm02:32

絵本にも飽きたのか、リンカがあたしの腰に抱きついて離れない。

機嫌を直してくれたのか、それともただの暇潰しなのか、理由は分からないけれど。

「ねぇー、ピアノー。
ピアノはー?
まだしないの?
ねぇー、元気まだ出ないの?」

あたしはリンカを抱き締め返して、バッグに入っている楽譜を取ろうとしたとき、アヤねぇが言った。

「リンカ。
アミちゃん具合い悪いの分かんないの?
ワガママ言う子、ママ嫌いだからね」

怒られて黙ったままのリンカが、あたしを見上げる。

悪いのはリンカじゃない。

悪いのは、弱者のあたし。

まだ少しだけ言うことを効かない体で、あたしはリンカの手をひいて二階へ続く階段へ向かう。

背中から聞こえる「無理しないでよ」と言う、アヤねぇの声を無視して。

無理してないと、あたしはきっとダメになる。

生きてるのか死んでるのか分からない、ただの置物になってしまう。
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