甘やかな螺旋のゆりかご


「ヤだっ。数ギリギリだからお兄ちゃんにはあげない」


「お兄ちゃんという生き物は、妹から欲しいものなんだぞっ」


「絶対にあげない」


わたしにねだってくれればいくらでも渡してしまうのに。何故か下の妹にだけしつこい様子に心で拗ね、しばらくその様子を観察していたのだけれど……。


「わたしのを食べさせてあげるから困らせないの。こっちだって愛しい妹でしょう?」


堪え性のないわたしは、自分のほうのガトーショコラを一口ぶん切り分け、椅子から落ちてしまいそうな勢いて背中を反らす兄の口に、それを放り込んだ。


……わたしのものじゃあ、嬉しさは半減かもしれないけれど。目当ての妹からではないから。


けれど、ガトーショコラで膨らんだあとの頬の緩みが満足しているみたいで。心がじわりと水分を含んだ。


「明日はもっと美味しいのよ?」


明日も渡せますようにと、二階の自室に引き上げていく兄を見送った。






指先を、口に含む。


途端、口内に広がるのは、甘くて苦いカカオの味。


無意識にやってしまっていた。部屋に帰っていく兄の背中、わたしのガトーショコラを満足そうに味わってくれた兄に感激してしまい、昂った心は、兄の唇に触れたわたしの指先を舐めてしまっていた。


キスを、したような錯覚をもって。


罪悪感が一足遅れてやってくる。


行為に対してではなく、妹の前だったことだ。兄しか見えていなくて、妹の存在はその瞬間消えてしまっていた。


不甲斐ないことに、妹には、ある日突然わたしの兄への想いを気付かれてしまった。……隠しても、笑い飛ばしてみても、妹は頑なにわたしを抱きしめてくれて。


頷くしか出来なくなった。


けれどわたしは、いけないことに、妹にばれてしまったことにどこか安堵してしまった。否定をされなかったことに涙した。


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