甘やかな螺旋のゆりかご


半年前に雇った……いや語弊があるな。雇うことになってしまった事務員は、何年か前に客だったお嬢さん。その頃彼女は大学生で、全財産を握りしめて事務所の扉を叩いてきたのを覚えている。思い詰めた表情にビビり、久々の探偵としての依頼に奮起したものだ。


依頼の完了と共に当然ながら切れた縁は、その三年後に復活する。ある日、シュークリームを作ってきたのだと遊びに来たのである。社会人となったお嬢さんは、それからも用もないのにここで寛いでいくことがしばしば。追い返すことはせず、飽きるまで続ければいいさと放置しておいた。


その頃一件、毛色の違う探偵寄りの依頼を解決してから、事務所は忙しくなり始めた。人脈の広かった依頼人がうちを周囲に推薦してくれた恩恵である。


とある日曜日、何故か顧客にお茶を出しているお嬢さんが、鳴りやまない電話を受けてくれたりして、寛ぐよりもこちらのほうがいいと、気紛れに事務所内の雑務を片付けていくことが多くなった。


そんな状況が一年を過ぎ、お嬢さんが勤める会社を退職してきたから雇えと履歴書を叩きつけてきた。上司からのセクハラを警察に訴えると上司の上司に報告しに行ったら条件を出され、上司を降格させ(退職に追い込めなかったのを憤っていた)、退職金と、それ以外の金をそこそこ搾り取ってきたから、とりあえず失業保険が切れるまではいいからその後雇えと押し切られた。その場で給料の交渉も済ませてしまい、低賃金だというのに、お嬢さんは満足げに頷いたのだった。


そうして現在である。正式に雇うまで渋って渋って引き延ばしたが、俺以外に所員のいないここは、確かに一人では回せないことも多くなってきていたし、人員の補充も考えてはいた。


が、事務員ではない。動けるやつだ。


それをお嬢さんに告げると弟子入りするときかないし、けれど俺はそれを拒否するし……まあ流れで、こうなってしまったのだけど、お嬢さんのそつない事務員っぷりには満足しているからいいかと思う今日この頃。娘の養育費もあと少しだから、動ける人員補充はそれからだな。


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