あと少しの恋
01
いつもあと少しとどかない
身長だって体重だって本当にあと少しとどかない
今日だってせっかく息をきらして駅のホームまで駆けあがったのにいなかった
「誰、捜してたの?」
後ろから声がする
「別にたいしたことじゃありませんから」
私は平然を装っているつもりだった
「いつもこの駅で誰かを待ってるよね?」
「べ~つにたいした奴じゃねぇんだろ北川」
ぽんぽんと不躾に私の頭を撫でる
「あのですね」
「なんだよ」
「うっ···」
この人のこの目には逆らえない
「北川をナンパするなんて目おかしいだろ」
「僕はただ気になっただけだよ
じゃあね」
その人は名前を告げずに行ってしまった
「さてとおまえは朝からなにしてんだ?」
「別に関係ありませんから」
「ふ~ん義兄貴か」
「えっ···」
そう私ははじめて知ったけどこの人が持つ独特のオーラはやっぱり由貴さんと似て非なるものだった
「なんだよその意外な顔」
「だって義兄だなんて初めて知りました」
「似てねぇもんな俺とあいつ
まぁ血はつながってねぇからな」
笑いながら私に何か手渡してきた
「なんですか?」
「義兄貴に渡しといて
どうせ上司だろ」
「うんまぁ
手作りですか?」
「当たり前だろ」
希瀬さんは笑いながら言う
私は由貴さんに少しでも近づけるように頑張って頑張って今の会社に受かったけどやっぱりとどかない
だって由貴さんは上司だし頭いいし
「なにぼーっとしてんだよ」
「えっあっうん行ってきます」
私は希瀬さんに手を振って電車に乗った
電車に揺られながらうつらうつらしていると肩を叩かれた
「おはよ」
「おはようございまって由貴さん?!」
「そんな驚かなくても」
「だってもうすぐ朝のミーティング始まる時間ですよ」
「なんかさ疲れちゃって」
「えっ···」
「俺だって人間だよ鈴ちゃん」
「あっこれ希瀬さんからです」
「希瀬が?」
「はい」
「ありがと」
「あっいえ作ったのは希瀬さんですし」
私は由貴さんと一緒に会社まで行く
今日はなんて嬉しい日なんだろ
私は上機嫌で自分のデスクのイスをひいた
「りんおはよ」
「おはよ~美沙」
「どうしたのぉ超ご機嫌じゃん
あっこれ新作のバックじゃん」
私が褒めてもらいたいのはそこじゃないんだけどと落胆しながらも言う
「そうなのこないだちょっとお金がういちゃったから」
「あれ~彼氏からのプレゼントじゃないの?」
「彼氏?いないいない」
私は顔の前で手を振った
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