エリート室長の甘い素顔
エピローグ
 当たり前のことだが、婚姻届を書いて出すだけが結婚ではない。


 大谷の両親は、10年も前に離婚してやもめ暮らしをしていた息子が、電話で再婚を報告しただけで大喜びだった。

 それだけ心配をしていたということだろう。

 実際の対面は後日という話になったが、こちらは特に問題ないと言えた。


 だが大谷との結婚にはまだもう一つ大きな山が残っている。

 ――理子だ。


 大谷は普段、理子とは携帯で連絡を取り合っている。

 まだ小学生の娘に母親がスマホを持たせているのは、自分を経由せずに大谷と連絡が取れるようにと考えてのことらしい。

 だが大谷は今回、あえて元妻のほうへ連絡を取り、再婚することを告げた。

 大谷は元妻に、できるだけ理子の心理面をフォローしてやって欲しいと頼んでいた。


 理子には、父親の違う弟がいる。

 弟は今の両親の元に産まれた子だ。
 だが理子は、大谷の娘。

 父親が二人いる現実を、理子はどのように受け入れているのだろう。

 そして今までほぼ自分が独占してきた大谷が再婚するのを、どのように受け止めるのか――


 大谷がこの結婚に対し「腹を括る」と言い表したのは、悠里の家族の問題に対してではなく、実は理子のことだったのではないか。

 もしかしたら彼女を大きく傷つけるかもしれない再婚という決断。


 そのことに気付いたとき、悠里は決めた。

 理子に対しても、自分にできることは目一杯やり、真摯に向き合おうと。

 彼女から父親を奪ってしまうことだけは、絶対にしてはいけない、と。

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