エリート室長の甘い素顔
 自分とエリックのスケジュールを確認して、複数の日程候補のうち、空いてる日付にチェックを入れる。

(うーん、少ない……)

 一日しかチェックを入れられなかったから、今回は外される可能性が高そうだ。

 全員の予定がピタリと合うことはまずないから、その中でも参加者が多い日を選ぶのがいつものやり方だった。


 エリックに付いていると、どうしても出張が多くなる。

 専任秘書に就いてからそんなに月日は経っていないが、社内でも頻繁にある飲み会にはめったに参加できなくなった。

 悠里はお酒自体は嫌いではない。特別強いわけでもないが――


「松村、スケジュール見せろ」

「へ?」

 気が付くとすぐ目の前に大谷が立っていて、軽く眉根を寄せている。

(スケジュールって……私の?)

 何も隠す理由はないので、カレンダーを開いてノートパソコンごと大谷のほうに向けてやった。

 大谷は大きな身体を屈めてそれを覗き込む。


「何か?」

 訊ねると、大谷は悠里のすぐ傍で屈んだ体勢のまま、こちらを振り返った。

 瞬間、ドキッとする。

(顔が近い――!)


 大谷は、すぐにまた画面に顔を向けて呟いた。

「詰まってんなぁ~……お前の予定に合わせるように言っとくか……」

 身体を起こし、ため息を吐きながら頭を掻く。

 大谷は元々営業畑なだけあって、格好はいつも身綺麗にしている。
 スーツはいつも窮屈そうに見えるが、それは既製品と体格のバランスが合わないせいだろう。

 昔ラグビーをやっていたらしく、胸板や二の腕が他よりも厚い。
 それでも現役の頃と比べたら、筋肉は半分くらいになったといつもボヤいている。


「お、昼は大丈夫だな。今日、昼飯な」

 そう言い置き、大谷は自分の席に戻っていった。


(なんだろう……)

 この、予定が空いてさえいれば必ず一緒に昼食、みたいな流れは――


 嬉しいけれど、いつからこうなったのか、悠里はいまいちハッキリと思い出せなかった。

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