エリート室長の甘い素顔
   ***

(うーん)

 悠里は自室のベッドに寝転んで天井を見上げた。


 安藤のイケメンっぷりに感心したまま一日が終わった。

(すごいわ、あれ……)


 連れていかれたレストランはラフな格好でも気軽に入れるお店だったが、料理はとても美味しかった。

 都内で何度か借りたことのあるコートの近くには、美味しい店も併せて見つけてあるらしい。


 マナー全般は申し分なかった。

 こちらのペースに合わせて食べてくれるし、好き嫌いせず、会話も弾む。

 なによりも本人が料理好きで、食べながら使われてる調味料が何かを一緒に考えたりして――


(楽しかったな~……)


 もし悠里が大谷を好きじゃなかったら、素直に彼と付き合ってみようと思えただろう。


「ああっ~!」

 上手く消化できない気持ちが思わず声に出た。

 中途半端なことをしている自分に、モヤモヤする。

 安藤が言い出したこととはいえ、不誠実なことをしているという感覚は消えない。

 良い人であればあるほど、なんだか心苦しくなる。


「どうしたらいいんだろ……」

 悠里はベッドの上で何度もゴロゴロしながら唸り続けた。


 その頃――

 隣の部屋で物音を聞きつけた弟がこっそり階下に行き、唸り声を上げる悠里のことを家族揃って心配していたのだが、当然本人は知る由もない。

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