エリート室長の甘い素顔
 ため息を吐いてうつむくと、しばらくして背後から人が勢いよく走ってくる足音が聞こえる。

 それに気付いた悠里は、ハッとして「まさか」と思い立ち止まった。

 反射的に振り返れば、もうすでに目の前まで近づいたその人は、軽く息を乱しながらじっと悠里を睨んで足を止めた。


「はぁ~……運動不足だ。軽く走っただけなのに、きっつ……」


 大谷が大きく息を吐いて、天を仰いだ。

 その姿を見つめながら、悠里は眉根を寄せる。

「なんで……? ダメですよ、せっかくみんな大谷さんに……」

「いいんだよ」

 悠里の言葉に被せるようにして、大谷が言った。

 そしてまた、真剣な顔でこちらをじっと見つめる。


「悪かった」

「え?」

「あれは、どうなってんのか知りたかっただけだ。お前を傷つけるつもりはなかった」


 その言葉に悠里は戸惑い、息を呑んだ。

 大谷がここまで踏み込んでくるのは初めてのことだ。


「私……そんな……」

 悠里が目をそらすと、大谷はふっと笑って手を伸ばしてくる。

 その武骨で大きな手は、悠里の頬をかすめて、そこをそっと撫でた。

「さっき、めちゃくちゃショック受けた顔してたぞ」

「……っ!」

 悠里は頭に血がのぼり、頬が急激に熱くなるのを自覚した。

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