エリート室長の甘い素顔
「大谷さん……マジかよ」

「うそだろ~~ここまできて……」


 悠里は桑名に持参した封筒を差し出した。

「これ、昨日のお金です。昨日は雰囲気悪くしちゃって……本当にすみませんでした。懲りずにまた誘ってください」

 あっけに取られたままの桑名がそれを受け取るのを確認して、悠里は軽く頭を下げると、静かにその場を去ろうとした。

 それを河野が慌てて引き止める。

「待って待って、松村さん! 大谷さん、なんて言ってたの?」

「え?」


 振り返った悠里の返事を、二人は深刻な顔をして待ち受けている。

(……そんなに重大なこと?)

 ただの野次馬というには、二人は真剣すぎる。
 おそらく本気で大谷のことを心配しているのだろう。

 だからといって、悠里はこういうプライベートなことを第三者にペラペラとしゃべるのは気が引けた。
 まして今は仕事中だ。


「今度、二人で話をします。何を言われるのかは、まだ……」

 悠里はそれだけ伝えると、気が抜けたように呆然とする二人を残して、今度こそ足早にそこを出た。

< 53 / 117 >

この作品をシェア

pagetop