エリート室長の甘い素顔
10
 昼休み――

 いつもの定食屋ニシキに行っても、大谷の態度は普段通りに見えた。


 おばさんに「いつもの」とお願いして、大谷と向かい合わせて一緒に焼き魚定食を食べる。

 ここの魚は店主のおじさんがその日の朝、築地で仕入れたものを出してくれるので、毎日魚の種類が変わる。
 旬の魚は頻繁に出てくるからもちろん被ることもあるが、新鮮で旨いので問題はない。


「今週末の日曜に東京を出て、水曜まで出張だから」

 ふいに大谷が自分の予定を口にした。

 悠里は共有スケジュールの中から、上司のエリックと大谷の予定はいつもチェックしているので、当然出張のことも把握している。

「九州ですよね」

 そう返せば、大谷はいつもの笑みを浮かべてうなずいた。


「土産、何がいい?」

 突然そう言われて悠里は驚き、一瞬息を止めた。

(お土産……?)

 そんなもの、今まで買ってもらったことはない。

 今は出張の回数もだいぶ減ったが、営業時代は週の半分以上出張に出ている状態だったから、どこか行くたびに土産を買うような習慣はなかった。


「なんで急に……?」

 悠里が顔を上げて大谷の表情を窺うと、彼はニヤッと笑った。

「そうしたくなったから」

 悠里は再び息が止まり、途端にむせて咳込んだ。

(な、何てことを……)


「お前は本当、顔と態度に出るなぁ」

 大谷はおかしげにそう言って笑うと、悠里の頭をポンっと軽く撫でた。

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