エリート室長の甘い素顔
01
 秘書室の一つ上、15階のフロアへ階段で移動する。
 ワンフロアだが高さがあるので、階段でもそこそこ良い運動になる。


 会議室が並ぶ通路を抜け、重役の部屋が固まっているエリアにある、重厚な造りの扉の前に立つ。

 ノックをすると「どうぞ」とよく通る低い声が中から響いた。

「失礼します」

 そう声をかけながらその扉を開けば、正面に置かれた執務机の前に立つ背の高い金髪の年配男性が、笑顔でこちらを振り返った。

 ――その男性、エリック・ダルシは、専務取締役で悠里(ゆうり)の直属の上司である。


「悠里、明けましておめでとう」

 声だけ聞けば日本人としか思えないほど流暢な日本語が、その口から流れ出す。
 彼は人を魅了するとても良い声をしている。

「おめでとうございます。今年もよろしくお願い致します」

 丁寧にお辞儀をして、悠里は顔を上げてまっすぐにエリックを見つめた。

「こちらこそよろしく頼むよ。悠里は良い年末年始を過ごせたかな?」

「おかげさまで、家族とのんびり過ごせました」

 軽くうなずいてそう答えると、エリックは満足げに微笑んだ。

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