エリート室長の甘い素顔
14
 その日の夕飯の席は和やかで明るかった。


 安藤が支度を手伝うと言い出して、母と並んで台所に立つという必殺技を繰り出してきた。

 当然母は目を白黒させながらも、安藤の手際の良さと細やかな気遣いに感心しっぱなしだ。


「すげぇな、安藤さん」

「……うん、すごいね」

 弟と悠里は一緒にリビングからそれを遠目に眺めているだけだ。

「母ちゃん、笑ったな」

「うん。このまま鬱になっちゃうかと思ったけど」

 弟はじっとこちらを見つめながら、ぼそっと囁く。

「結婚しろよ、ねえちゃん。今しなかったら、一生できねえだろ」


 悠里は息を呑んで、弟を見つめ返した。

 何も言わない悠里に、弟は言葉を重ねる。

「安藤さん、病院で言ってたぞ。『僕は結婚したいと思ってる』って。正直、いきなり家族に言っちまうのはどうかと思ったけど……考えてみたら、よく分かってるよな。ねえちゃんの性格からしたら、かなり強引に進めなきゃ絶対踏み切らねぇもん」


 悠里は言葉もない。

 安藤はすでに家族にも結婚の希望を伝えていたのだ。

 でなければ、さすがの母も彼を台所に立たせることはしないかもしれない。


 その台所に目をやると、安藤がネギか何かをトトトトと良い音で切っていて、母は「おお」と目を丸くしている。

 なんだかとても楽しそうだ。

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