エリート室長の甘い素顔
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 悠里が着てきたのはシンプルな細身のパンツにセーターとコート。

 持ってきたバッグに入っているのは、財布と小さな化粧ポーチのみだ。


 洗面台の鏡の前で、日焼け止め代わりのファンデーションを薄く塗り、ポーチからリップクリームを取り出す。

 するとふいに横へ並んだ大谷が「ちょっと待て」と言った。そして振り返った悠里にキスをする。

「ん!?」

「……それ、塗る前にな」

 大谷はリップクリームを指してそう言い、何事もなかったかのように洗面台を離れていく。


(な、何を……)

 呆然としながら鏡に向き直れば、真っ赤に染まった自分の顔が映った。

「はぁ~」

 彼と一緒にいると、心臓が保たない。


 リビングに戻ると、大谷はなぜかワイシャツにスーツを着て、ネクタイは締めずにポケットにしまっている。

「え? これから仕事ですか?」

 スケジュール表にそんな予定はなかったはずだ。

「いや……他にそれっぽい服ねーから」


(……それっぽいって何?)

 悠里が怪訝な顔をすると、大谷は「ほら、行くぞ」と言って玄関に向かった。

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