夏のわすれもの
「あたしの場合は、観光なんだけどね」

観光か…。

去年も観光するためにここへきていたのかなと、俺はそんなことを思った。

「おーい、綾香」

その声に視線を向けると、遠くで手を振る人物がいた。

遠くからでもよくわかる赤茶色の短い髪が特徴的だ。

「すぐに行くわ、お兄様」

何だ、兄貴か。

彼女と同じ髪色だからそう言うことだよなと、俺は納得した。

「じゃ、あたしはこれで」

彼女はニコッと微笑むと、俺の前を去った。

去年と一緒である。

遠くなって行く彼女の背中を見ながら、俺はそんなことを思った。
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