嘘つきな背中に噛み痕をアゲル。


幹太は息を吐くと、ポンポンと軽く私の頭を撫でた。

「お前の心に、晴哉の為に残った傷も、否定したくない。全て受け止める自信もある。

けど、晴哉が居なくなってから、後悔したくないって、――告白してしまうのが後ろめたいのも本当だ」

「幹太」

「だから、今は俺の気持ちを知って、それでいいかな」

しょうがねーよな、こればかりは、とクスクス笑う。
そんな笑い方も出来たんだ。

「いつか、よぼよぼの爺さんになる前に気付いてくれたらいいな。空には太陽と月しかねえってことを」

そう、くしゃくしゃな泣きだしそうな顔で笑う幹太は、本当の本当の本音は雲に隠した。

強引にはこれ以上、踏み込めないんだ。

幹太にも晴哉は大切な存在だから。

強引に奪って欲しい。

一瞬、そう思った私は、きっと晴哉に不誠実なんだ。



苦しいよ、晴哉。

私に目の前の愛情を受け止める広い心がないくせに、欲しい。



幹太の心が欲しいの。この手に抱きたいの。


心はまだ、晴哉を愛しているのに。
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