嘘つきな背中に噛み痕をアゲル。

垣根の向こうから、お義母さんがのんびりとやってきてくれた。
正直、頼ってばかりだったからどうしようかと迷っていたのに。

「良いですか? 母が足が悪くて」
「うんうん。聞いたわ。大丈夫よ。後は任せて」

隣が義実家とか、本当なら敬遠されがちだけど、生まれた時から知っているからこそ、状況が分かって頼れたりして――私は本当に恵まれていた。

「桔梗ちゃん、貴方の花が綺麗よ」

そう言われて、幹太の家の垣根を飛び越えると、壁一面に桔梗の花が咲いていた。

風に揺れる、桔梗の花が朝を待っているのにまだまだ夜を色深く残しているように見えて、以前の様に綺麗だと眼を奪われなくなったのは、――あの日からだ。

晴哉の事故より前の夜から。
けれど、朝が来なくなった決定打は、晴哉の死で。

私は、桔梗の花の中、息を吸うのも忘れて深く深く潜っていきたい。
差しのべられて手の理由を、考えてはいけない。

助けようと差しのべられた手なのか、
一緒に堕ちていきたいと願う手なのか、
私はソレを知ってはいけない気がして。

夜の様に真っ暗な花
に瞳を落とした。
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