嘘つきな背中に噛み痕をアゲル。


「でも、本当の俺は、桔梗を抱き締めたいしキスもしたい」

その言葉に思わず耳を塞いでしまった。

「アンタの口から、そんな言葉聞きたくなかった」

ポロポロと涙が溢れていく。
涙が溢れるせいで、いつもの無表情な幹太が更に見えなくなる。


「これだけは」

真っ直ぐに、空気を切り裂くような真っ直ぐな声で幹太は言う。

「晴哉を大切に思っている桔梗がいい」

「意味が分からない……」

「俺が一番分からねぇよ」

短くそう言うと、立ち上がった。

思わず、一歩後ろへ下がると幹太はそのまま背中を向けた。

「すま――いや、帰る」

謝り掛けて、止めたまま幹太は廊下へ出て帰って行く。

玄関を閉めると、そのまま庭の砂利を踏んで行く音さえ鮮明に聞こえてきて、私はさらに耳を塞ぐ。

未だに、心臓は早く波打っていて身体がピリピリと震えている。

一番酷いのは、何度も何度も拭ってひりひりと腫れた唇かもしれない。

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