結婚前夜ーー旦那様は高校生ーー
「真下だったんだよね」
 竹串の先につけたパールの飾りを、ひとつひとつ桜色の爪に乗せていく。熱心に作業を見ていた夏帆は、ミドリの言葉に顔を上げた。
「なにが?」
「旦那君。あたしの部屋の」
 ミドリが肩を揺らして笑う。夏帆も頷いた。
 酔っぱらったミドリが階段を上り忘れて、自分の部屋だとおもってドアを叩いたところが悠樹の部屋だったのだ。そのことが判明するのに五分かかった。真夜中に起こされた少年は夏帆たちの鼻先で、

「ろくな大人じゃねぇな」

 そう吐き捨てて扉をバンッと閉めた。



 パールが小さなブーケのように指先を飾る。一足先に花嫁になっていく指先を見ながら、夏帆はクスクス笑った。
「まったくさ、なんて生意気なガキっておもったよ」
「夏帆があんまり怒るから、私も酔い冷めちゃったしね」
「あんたは飲みすぎ」
 明日は酔っぱらわないでよ、と言ってると、ガチャン。玄関のドアが開いた。

「ただいま」
 続いて居間の扉が開く。悠樹が立っていた。
「あー旦那君」
「おかえり。あれ一人?」
 首だけ向けて尋ねる。悠樹はミドリに会釈しながら、
「うん、なんかせっかくこっち来たから観光したいって長兄が。皆でスカイツリー見に行くって」
 大学でラグビーをやってるという悠樹の従兄を思い出した。従弟より十歳上の妻を、親族の間で誰よりも早く迎え入れてくれた。

 よろしくねえさん。結婚式友だちも来るだらぁ? きれいなOLさん紹介してよ。

 悠樹の両親と同じ訛りの軽口が優しく響いて、笑みが自然と浮かんだ。
「やっぱり私も挨拶行ったほうが良かったかな」
「いいんじゃん。俺も準備終わってないって逃げてきたし」
 言いながらブレザーを後ろのソファに脱ぎ捨てる。さっきは気づかなかったけど、上から二つ目のボタンの糸が緩んでいた。やっぱり三年間使ってるとボロボロになるんだな、と思う。

 二人のやり取りを見ていたミドリがしみじみとした口調で言った。
「なんか、いよいよだね」
 振り返ると、ミドリの目がいつの間にか赤くうるんでいた。お岩さんがどうとか言ったくせに、本当は夏帆よりずっと涙もろい。悠樹と夏帆が顔を見合わせると、目頭を抑えながら
「だって、いろいろあったじゃん。私はさ、ずっと見てたから」
 すん、と鼻をすするミドリと目が合う。大学のときからの一番の親友。お互いの泣き顔を、もう何度見てきただろう。

「幸せになんなよ、絶対」

 ミドリが赤い目で笑うから、やっぱり夏帆も涙が滲んだ。
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