英雄の天意~枝葉末節の理~
 走る速度も掴む力も以前より著しく強さを増している。

 そして最も変化を見せたのは視力だろう。

 まるで鷹のように遠くを見渡すことができ、猫のように夜目が利く。

 このときになってナシェリオは己に恐怖した。

 ドラゴンが言ったことなど戯れだったのではないかという思惑は脆くも崩れ去り、私は人ではなくなったのかと背筋を凍らせる。

 私はいつか、人の姿すら無くしてしまうのか──?

「それだけは嫌だ」

 真冬でもないのに歯をカチカチと鳴らし、無駄なことだと解ってはいても精神を保とうと強く己の体を抱きしめる。

 自分の身に何が起きているのか、すでに理解を超えていた。

 叫ぶ間もなく命を落としたラーファンがとても羨ましく思え、死ぬ方法を繰り返し考える。
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