英雄の天意~枝葉末節の理~

*狂いの象徴


 ラーファンは複雑な色を見せているナシェリオの瞳を注意深く窺う。

 冥府に墜ちた俺が、どれほどお前を憎らしく思っていたことか。

 英雄になるのは俺だったはずなのにと、暗く陰気な深淵からふつふつと憎しみをたぎらせていた。

 憎しみの強さは取り込める闇の許容を大きくする。

 冥王は底知れぬラーファンの闇に気づき、甘い言葉を連(つら)ねてその手中に収めた。

「俺は冥王の目に敵ったという訳さ。随分と回り道をしたがお前とドラゴンのおかげで、ようやく俺は満足に足る力を得ることが出来た」

「そんな力が、満足だと?」

 何かを傷つけるだけでしかないそんな力が満足だというのか。

「怒っているのか? お前だってこの世界の無情さには呆れているだろうに」

「この世界は無慈悲かもしれない。だけれど、それだけではないことを私は知っている」

 あらゆる存在を残酷だとすることは出来ない。

 美しい風景に心揺さぶられ、多くのものには紛れもない優しさがある。

 それをどうして負の言葉で一つにまとめられようか。
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