続 音の生まれる場所(下)
「人のカレシにベタつかないで…!私が彼女よ…!」ってーーー。

外国からのお客さま相手にみっともないとこ見せれない。自分の勝手な思い。坂本さんが悪い訳じゃない…。

『今日はごめんなさい。折角のお誘いをムダにして…。次はご一緒できるよう体調整えておきますから…』

電車の中から言い訳メール送る。家に帰ったら、母に不思議がられた。

「あら、今日はデートだったんじゃないの?」
「違うよ…なんで?」

パタパタ…と玄関先で花粉を払う。その姿を見て指さされた。

「新しいコート着て行ったでしょ。真由子は昔からデートとなると、必ず新しい物身につけてくもの」

自分でも気づいてないようなことを指摘され、カッと顔が赤くなる。

「こ、これはそういう意味じゃなくて、今日は花粉量が多いってTVで言ってたから…」

花粉の付きにくい素材でね…って、聞いてないか…。

「真由子、誰と付き合ってもいいけど紹介はしてね。お父さんには黙っとくから」

察しがついてるのにそれを言う。つまりは母も坂本さんに会いたいんだ。

「ま、また今度連れて来る…」

高校の時付き合ってたカレシが急に亡くなった経験があるせいか、母は私のカレシに会いたがる。相手がカズ君だった時も会いたがってたけど、あの時は結局、紹介しないままで終わった…。

(坂本さんは紹介しておきたいな…できればお父さんにも…)

先のことは決まってないけど、ずっと一緒にいたい人。…でも、父は坂本さんを気に入ってくれるだろうか…。
部屋に入り、飾ってる写真を手に取る。この間行われた定演の時の写真。二重奏の後、二人で並んだ所を夏芽が撮ってくれた。

(この時は、すごく近くに感じたのに…今はとても遠くにいるみたい…)

異国の女性と肩を並べて歩く姿が様になってた。後ろをついて歩く自分には入る余地もない程、親密な関係みたいに思えた。
知らない彼を知ってる女性がいるってだけで胸が騒つく。居場所を奪われていきそうで、ぎゅっ…と胸が苦しかったーーー。
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