続 音の生まれる場所(下)
「大丈夫?」

言葉づらは心配してるようだけど、どうも声が笑ってる。

「ダイジョーブじゃないでず…鼻づまりでぐるしぐで…目ぼすっごく痒いし…」

私の言葉、完全にズーズー弁っぽくなってるから可笑しくてしようがないらしい。笑いを噛みしめてる。

「さがぼどさん…人事だと思ってばすね…?」

花粉症ってね、急に症状が出る人いるんだよ、笑ってるけど明日は我が身かもよ!…と言っても、この人は無縁そうだな…。

「思ってないけど、辛そうだね…明日無理しなくていいよ」
「いえ!しばすっ!ぜっがくあざから会えるのに…」

坂本さんがドイツから帰国してきてやっと予定も何もない日曜日なのに、花粉症なんかに負けてられない!…といつも通り、強情を張ってみたのはいいけど…。



「…ごべんざさい…今日どでも顔を見ぜれまぜん…」

目は真っ赤だし鼻はかみすぎて皮まで剥けてきてるし…メイクもできないから恥ずかしいし…と、いろいろ言い訳した。


「やっぱりそうきたか…」

早起き苦手な人にこの仕打ち。申し訳ないったらありゃしない。

「君は強がってたけど、そうなるんじゃないかと思ってた」
「ご…ごべんざさい…」

強がった分平謝り。誰がなんと言っても私が悪い。

「謝らなくてもいいけど…病院どうする?」
「あじだいぎまず…」

日曜日でどこも開いてないから今日は市販薬で凌ぐしかない。

「明日か…それまでツライね…あっ、なんなら僕、お見舞い行こうか?」
「い…いえっ!いいでずっ!ぞんな、花粉症くらいでおびばいなんて…(会いたい…会いたいけど…)」

心の声、手の中で押し潰す。どんなに会いたくても、こんな情けない顔見せれない。

「…あじだ…病院行ってぐずり貰って来まずから…ぞれがらなら会えばす…」
「うーん…」

声に出して悩んでる。楽器職人という珍しい仕事をしてる彼は、自分の仕事以外にも師匠の仕事まで手伝ってるから、そんなに暇じゃないらしい。

「明日はちょっと都合悪くて…知り合いが訪ねてくることになってるから…」
「ぞ、ぞうでずが…」

がっかり。…だけど、自分の体調のせいだから仕方ない。

「近いうちに時間作るよ。また連絡する」
「あい…待っでばす…」

片手にティッシュ掴む。クシャミが出そうで鼻がムズムズしてきた。

「あっ、あのさ…」
「くっしゅん!!」

ブチッ。

「あっ…やばっ…切っじゃっだ…」

力んでギュと握った瞬間、通話終了ボタンを押してしまった。

「どうじよ…かげなおざないと…」

気持ちは焦るけど、次から次へ出てくるくしゃみに遮られる。あまりに何度も続くから、とうとう諦めた。

「もういい…あじだにじよ…」

さっき飲んだ市販薬のせいで眠気が差してくる。ぽて…と横になり、すぐに眠り始めたのはいいけど、その時見た夢はサイアクなもので…
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