続 音の生まれる場所(下)
「I’m not ヤマトナデシコ!」

中1英語。これ以上の英語力なんて持ち合わせてないからね。

「ソンナコトアリマセン!」
「おおっ⁉︎ 」
「すげっ!日本語出た!」

変なとこでハルシンが感心する。

「ホントです。私は…フツウの女子…大和撫子じゃない…です!」

ゆっくり日本語で断言。ユリアさん、ジッと私を見つめ、こう言い返してきた。

「SAM Said!Love is ヤマトナデシコ!It’s You!」

(えーと…今の言葉は…坂本さんが大和撫子が好きだと言ったから、それが私だろうってこと…?)
「うーん…」

「真由子が悩んでるよ」
「初めて見んな」

ハルシンが笑い合ってる。無理もない。私だっておかしい気がしてきたもん。

「ユリアさん…」

残念なお知らせですけど…と前置きさせてもらう。

「私の知る限り…大和撫子とは…おしとやかで…慎ましくて…キリリとした…女性のことだと思います。だから…私は該当しません…」

(こんなこと言わなきゃならないなんて…情けなさ過ぎる…)

「大体、ユリアさん…どうしてそんなに…大和撫子に憧れるんです?…貴女はスタイルも良くて、キレイで、歌声だって人一倍美しいものを持ってるのに…」

ついでに言うなら坂本さんの楽器作りも手伝えるし、ドイツで彼の仕事の手助けまでできたじゃん…と、これは私の心の中でだけ。

悔しそうな顔して黙り込んでる。もしかして私…聞いてはならない事を言ってしまった…?

(聞いてはならない事…)

大和撫子に憧れる理由…そうまでして…日本女性になりたがる理由…。

(もしかして…)

イヤな予感する。これってきっと…聞かない方が良かった…⁉︎


「ワタシ…」

ユリアさんの声が震えてる。

(ダメ…言わないで…!聞きたくない…!!)

思わず耳に手を当てそうになった時、ユリアさんが囁いた…。

「MAYUKO…ウラシマヤ…」
「へっ…⁉︎」

(浦島や…⁉︎ 何それ…⁉︎)


「昔話か?」
「いや、海苔の会社だろ?」

ハルシンまで不思議がってる。

「あの…ユリアさん…」

どういう意味なのか聞こうとしたら、彼女が先に話し始めた。

「SAM…ヒステリック…in ドイツ……イマ…マルデ…バツジン…ネ…」

ゆっくり考えないと分からない彼女の日本語。この後の話は、ハルシンと協力して解読していった。



「SAMはドイツで怒ってばかりいた。今とはまるで別人だった…」

そう言うと、ユリアさんは大きく息を吐いた。

「…初めて会った日、彼は工房の外にいた。見たことない人だったけど、直ぐに父の言ってた日本のお客様だと気づいた」
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