続 音の生まれる場所(下)
「…着いたよ」

車のエンジン止めて声をかけられた。ハッとして彼を振り返る。

「…何?どうかした…?」

口元に笑み浮かべてる。今更ながらのことでヘンかもしれないけど…。

「坂本さんって…車の運転…できたんですね…」

いつもチャリのイメージだったから、てっきり免許持ってないのかと思ってた。

「できるよ!これでも運転は結構上手いんだ」

うん、そりゃそうかもしれない。確かに安全運転で揺れも少なくて乗り心地良かった。
でも…それって、この車が外車だからなんじゃないの⁉︎

「あの…この車はどこで…?」

車内のどこを見ても高そうな気がする。絶対坂本さんの収入じゃあ買えない。

「ああ、ドイツにいた時に、レオンが乗ってたやつを安く譲り受けたんだ」

(やっぱり。だって、この車ドイツ製だもん…)

改めて考える。うちの前にこの車が止まってるの見た近所の人達、絶対何か誤解してる。

(…今頃お母さん、質問攻めにあってるかも…)

収入少ない楽器職人としては分不相応な気もする程いい車。だけど、運転してる時の坂本さんはカッコ良くてステキで、上司の三浦さんなんか、比べものにならないくらいサマになってた。

「はい、出て」

助手席のドア開けられた。中に手が差し伸べられる。これにつかまって…てことみたい。

右手を差し出す。きゅっと掴んだ彼の手が私を支えるように力を入れる。痛くもなんともない、ちょうどいい加減。

(…ドイツでも…こんなふうに女性の手、取ってたのかな…)

きゅっと胸が苦しくなる。考えても仕方のない事なのに…。


車外に出ると、水野楽器工房の建物が見えた。

「あの…ここって…」

自分が寝泊まりしてる場所。しかも隣は先生の家。

「坂本さんが連れて来たかった場所って、ここ…?」
「そう。君にプレゼントしたいものがあって」
「プレゼント?何ですか?」
「入ってからのお楽しみ!ほら、行こう!」

肩に手を回される。出かける前にシャワー浴びてて良かった…って、別に何かを期待してる訳じゃないけど…。

裏口から中に入るのは初めて。先生の家と工房との間にある脇道を歩いて行くと、先の方に女性が立ってた。


「母さんっ!」
(えっ…⁉︎)

驚いて彼を振り返る。前を見つめてる彼に合わせて向き直る。立ってた女性が振り返って、ニッコリと微笑んだ。
キレイな奥二重の目が似てる。優しい雰囲気も顔立ちもそっくり。

…間違いない…この人、坂本さんのお母さんだ…。
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