続 音の生まれる場所(下)
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起きた後で、彼が楽器作りを見せてくれた。
無言で作り上げていく小さいパーツを見ながら、出来上がるのは楽器だけじゃないんだと思ったーーー。


「理さんは…楽器を作りながら、自分の夢も作り上げてるんだね」

帰りの車の中でそう話すと、初めて気づいたような顔をされた。

「…そうか…そんなふうに考えた事もなかった…」

一心不乱に打ち込む作業中は無の境地に達してる。
一歩離れた所から冷静に彼を見つめることは、きっと何かの役に立つんだ…。


(できる事あった!)

声にしなかったのは、自分の中で常に持っていたいと思ったから。
時々振り返って、思い出して、確かめたいから…。

ーーー工房で生まれるのは、楽器や音だけじゃない。
彼の夢も、私の夢も、愛も、何もかも、ここから生まれ育っていくーーー


「理さん…」

心を込めて名前を呼ぶ。

「何?」

ハンドル持ったままの彼が視線だけをこっちに向ける。
愛しい人がすぐ側にいて、当たり前のように答えてくれる。
その日常が、一番の幸せ…。


「大好きよ」

感謝も込めて言葉を贈ろう。共に生き続けていく日がある限り…。


「僕もだよ」

全てを理解したように声が戻ってくる。
あの日と同じ。
でも、もう二度と離れないーーー。


ハンドル握ってる腕に掴まった。
照れ屋で…頑固で、たまに言い足らない所もあるけど、愛情いっぱいで、優しくて、ホントに一途な人…。

私の…大好きな人……。


「危ない!頼むからやめてくれ!」

怖がってる。もしかして、運転嫌いなのかも…。

(…なんだ。それで滅多と運転しないんだ…)

可笑しくなってくる。一つ一つ、知ってく事が増えていく。きっと、これからも沢山…。

(そっか…一緒にいるって…そういう事か…)

やっと…ホントに分かった。




ーーー先を見据えながら、始まったばかりの私達。

まだ未来はハッキリしないけど…

いつか二人で作り上げたい。


私達の


『音の生まれる場所』をーーーー




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