センチメンタル・スウィングス
この後も仕事がある兄とは、ファミレスで別れた。

「桃子。少しでいいから、後で何か食べるんだぞ」
「うん。じゃあ。奢ってくれてありがとう」
「またな」
「うん」

思ったより、お兄ちゃんに小言を言われなくて良かった。
でも・・・事務所に戻るまでの徒歩2分、和泉所長(このひと)と二人だけっていうのは・・・過去、そういう状況は何度かあったけど、今回はなんか・・・気まずい。

あ、そうだ!

「和泉さん!」
「ん?」
「あの・・もう一つ。この賭けのことは、誰にも・・・特に事務所の人たちには、言わないでほしいんですけど。私も言わないから」

お兄ちゃんにも「黙っててよ」って言うの忘れてたけど・・・私が負けると思っているなら、誰にも言わないだろう。

「いいよ。どっちにしても、おまえが負けるし」
「違います。言った矢先に和泉所長が挫折するから、言わなくてもいいってことです」
「おまえがそう言うなら、そういうことにしとこーか」

と言う和泉さんの言葉に、いちいちムッとするのは大人気ないと、私は自分に言い聞かせた。

< 34 / 150 >

この作品をシェア

pagetop