らぶ・すいっち




「あの、英子先生」
「あら、どうしたのかしら。須藤さん」


 不思議そうに小首を傾げる英子先生に、私は意を決して打ち明ける。


「あのですね。私、美馬クッキングスクールに入って半年になるんですけど……そのぉ、料理の腕は全く上達していなくてですね」
「あらあら」
「そんな底辺な私が、料理講演会に行ってもいいのでしょうか。場違いなんてことには」


 最初は目を丸くしていた英子先生だったが、次の瞬間顔をクシャと寄せて笑い出した。


「まぁまぁ。何を心配しているのかしら、須藤さんったら」
「でもですね!」


 慌てて口を出そうとした私に、英子先生は笑顔で制止した。


「大丈夫よ。料理の腕も、受講期間も関係ないの。勉強したいと思う人なら、誰でも大歓迎の講演会よ」
「英子先生」
「それに須藤さんは、とても頑張っているって順平が言っていたわよ」
「え……?」


 突然話題に登場した順平先生の名前に、私はドクンと胸を躍らせた。


「だから大丈夫。そんなに気負わず、楽しんでいただければそれで充分だから」
「はい、わかりました!」


 私でも参加OKと聞いてホッと胸を撫で下ろす。

 それなら、講演会で講師のお話を聞いて、少しでも料理上達の道を究めなければ。
 私のことを頑張っていると言ってくれている順平先生に、少しでも努力している姿を見せたい。

 フムフムと英子先生から渡された用紙を見て、疑問点はないか確認する。
 うん、たぶん大丈夫だろう。そう英子先生に言うと、先生は目尻にいっぱい皺を寄せて笑った。


「じゃあ決定ね。その日は、須藤さんのお宅に8時に迎えに行くわね」
「はい、よろしくお願いします」


 私は英子先生に、ぺこりと頭を下げたのだった。






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