らぶ・すいっち





「さて、戻りながら食事をしていきましょう」
「えっと、その……」


 心臓がいくつあっても足りないし、このまま順平先生と長い時間二人きりでいたらとんでもないことが起こるような気がしてならない。

 危険シグナル発生。猛ダッシュで逃げろと心の内で叫ぶ。
 私は、順平先生の逆鱗に触れないよう細心の注意を払いながら、無理やり笑顔を浮かべた。


「ここからなら電車を使っても帰れますし……順平先生のお手を煩わせるのも気が引けるので、私はここで……」


 もっともな言い訳をいいながら逃げようとする私を見て、順平先生は凄みのある笑みを唇に浮かべる。
 それはたとえようのないほどに恐ろしい笑みだった。


「何を言い出したかと思えば。そんな気遣いは無用ですよ」
「で、でもですね!」


 反論しようとする私の唇を、順平先生は不意打ちのようにソッと長い指で触れた。


「大丈夫ですよ、須藤さん。きちんと送り届けますから」
「……」
「まずは戻りつつ、夕飯を食べに行きましょう。今から向かえば、ちょうど夕飯の時間にピッタリになりそうですからね」


 ガッシリと肩を抱かれ、「反論はないですよね」と無言で訴えてくる順平先生の視線に、私は早々と白旗を振った。

 そのまま会場を後にした私たちは、順平先生の車に乗り込み帰路へとつく。
 鼻歌交じりでハンドルを握る順平先生の横顔は、なんだか意味ありげに感じた。



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