らぶ・すいっち





「おいしいのひと言を聞くために、そして料理に真剣に向き合っている視線は日本料理の職人である須藤さんにも負けていないと自負しております。ですから、京香さんと結婚をしてもこの仕事は続けていくつもりです」
「……ぼたんいろを継ぐつもりはないということか。それなら京はやらん」
「いいえ、いただきます。どんな妨害を受けたとしても」


 ね、京ちゃん。そう言ってやっと私を振り返った順平先生の笑顔は、いつも以上に自信満々でかっこよくてステキだった。

 でもそれが最後だった。涙で滲む私の視界は、そんなカッコいい順平先生の笑顔をずっと見せてはくれないようだ。
 泣き出した私に近づき、順平先生はいつものように頭をゆっくりと撫でてくれる。

 その温もりに私は迷わず縋った。


「ねぇ、京ちゃん。結婚はお父さんに反対されてしまいました。その上、私は威勢良く啖呵まで切ってしまいました」
「はい」
「でも、私はなんとかお父さんを説得してみたいと思います。その間は結婚式を挙げることはできないので、私と同棲生活始めませんか?」


 なっ! というお父さんの叫び声が聞こえたが、それを無視し順平先生は私の顔を覗き込んできた。


「京ちゃんと一緒に生活がしたい。京ちゃんと毎日食卓を囲みたい。きっと京ちゃんが作るインパクト大の料理だって楽しいことでしょう」
「順平先生……なんか一言余計な気がします」
「ふふ、でもね京ちゃん。些細なことを二人で喜び合いたいと思いませんか? 前にも言ったでしょう。一緒に暮らしたいって。どうですか、良い機会ですから私と一緒に生活しませんか?」
「あのですね、順平先生」
「なんですか、異議ありなんて言わないでくださいよ?」


 そんなこと言っておいて、なんだか自信満々で余裕な表情はなんですか、順平先生。
 私はなんだか悔しくなって口を尖らせた。



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