らぶ・すいっち




「今、私が受け持っているのは、この土曜日。それも午前からの一クラスのみ。私が目的で受講希望されても、これ以上は料理教室で講師をすることはできません」

 確かに順平先生の言うとおりだ。先生はこの“美馬クッキングスクール”以外での仕事がたっぷりあるという。

 昨日見たテレビ番組にも出ていたし、書店に行ってみたら来月新しいレシピ本が出ると宣伝もしていた。
 それ以外にも、私たちが知らない仕事があるのだろう。

 多忙な順平先生がこれ以上教室を受け持てるわけがない。
 誰もが納得した様子を見て、順平先生は肩を竦めた。

「純粋に料理がしたい。レシピを増やしたい。そういう方だけに、うちの料理教室にきていただきたいんですよ」

 そういえば、と私が入校手続きをしたときのことを思い出す。
 
“本当に料理がしたいわけですか? 私に興味があるだけなら余所に行ってください”

 冷たい態度でそう一瞥されたのは半年前。
 今までも順平先生が目当てだという女の子が後を絶たなかったのだろう。

 だからこそ、順平先生はあえて1クラスしか持たないし、その1クラスも50歳以上でなくては入れないという制限を設けた。
 特例として、私みたいに順平先生が目当てではないというのも含まれてはいるけど。
 
(本当、私ってば特例なんだろうなぁ……)

 英子先生も言っていたが、順平先生と喧嘩したのなんて私だけなんだろう。
 しかし、それではなんとなく辻褄が合わない。

 初めての出会いによって、順平先生目当てではないと理解はされたことだろう。しかし、喧嘩をしたのだ。
 そんな相性最悪の二人なのに、どうして順平先生は自分の土曜クラスに私を入れようとしたのだろうか。

 英子先生の独断で決めたものなのか。
 でも、あの順平先生だ。
 英子先生がそんな決断をしたからと言っても、嫌っている人間をわざわざ自分のクラスにいれるものだろうか。

 謎は深まるばかりである。しかし、それを本人である順平先生に確認するのは……少しだけ怖い気がする。
 何を恐れているのか。それは自分でもよくわからないけど。


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