らぶ・すいっち





(もしかして、順平先生。私の出来なさぶりをみて楽しみたいだけじゃ……)

 たぶん、私の予想は間違いないはずだ。慌てふためいたりしている私をからかって遊びたいから無理やり料理初心者をこの上級者向けコースに入れたのだ。
 そう考えるとフツフツと怒りが湧いてきたが、今はとりあえず料理に集中だ。

 必死に材料を書き写し、順平先生から手順を書き込む。
 いつものように順平先生の鮮やかな手さばきを見た後は、実習だ。
 
「さぁて、京香ちゃん。どれやる?」

「えっと……どうしましょう。今日はとても手強いですよ」

「そうねぇ……ここはあえて厚焼き卵いっておこうか」


 辺りが騒然となった。いや、もちろん私が一番先に叫んだ。


「ちょ、ちょっと待ってください。わ、わ、私が厚焼き卵って……無理がありますよ」

 無理だ。絶対に無理。首を大きく横に振る私を見て、グループのおば様たちはニンマリと意味ありげに笑う。怖い、怖い、怖いですよ。

 厚焼き卵を作ることより、おば様たちの笑みのほうが怖いってよほどのことです。
 後ずさって逃げようとする私を羽交い締めにし、おば様たちはほほ笑んだ。

「だって京香ちゃん。この前言っていたじゃない」

「へ?」

「家でいやってほどだし巻き卵の練習をしたって」

「た、確かに言いましたし、やりましたけど……成功率は20%あるかないかですよ!?」

 危険な賭けです、と言い切る私だが、自分で言っていて悲しくなってきた。
 だが、グループのおば様たちは親指をグッと立てて大きく頷いた。

「大丈夫。その練習の成果を見せる時よ! 京香ちゃん」

 ほら、とボウルと菜箸を渡され、目の前には卵を置かれた。これはもう、やるしかないのだろう。


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