ハンバーガーと私とガールズラブ
 マイクスタンドの前でギターを弾いていたギターボーカルのエリ。


 ベースのミホ。


 ギターソロをカッコ良く決めていたアイリ。


 ……と、ドラムのところに座ってるの、誰だっけ。


「は? なんで来てんの、こいつ?」


「あ、ごめーん、メール一斉送信しちゃってさ。」


 ミホとアイリがなんだか他人みたいに感じた。


「エリにあんなことして、良く顔出せるよな、お前。」


 そう言ったのは黒いタンクトップを着てる、セックス・ピストルズ信望者の少女ロッカー、ミホ。


 ミホは怒った顔をしたまま私につかつかと歩み寄り、私の前に立ちふさがった。


 ど、どうしたの? ミホ。


 いや、遅刻しちゃったのは悪かったけど、そんなに怒らなくても。


 その時。


 「あ、キー子。言うの忘れてたけどさ~」と私にアイリが言う。


「新しいドラムスのキョーコちゃんです~。キー子に名前が似てるけど、滅茶苦茶上手いの~。リズム全然崩れないし、アドリブも完璧~。」


「え? えっと、そうなんだ、はじめまして。」


 私は意味が分からずに、そう言ってみた。


 キョーコとか言う、私がいるはずの位置にいる細身の女の子は返事もしない。


「おい、聞いてなかったのかよ。」


 ミホが再び一歩近づいて、私の視線をふさいで立つ。


 ちょっと怖い。


 ミホはフンと鼻を鳴らすと言った。
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