あまのじゃく
彼のペース
自転車を押して歩いて5分。
やっと着いた。
遠目に見ても分かる生徒指導の先生の姿。
仁王立ちしてこっちを睨んでる。

大丈夫、正直に話したら分かってくれる。
門の前に着いたその瞬間。

「遅刻してるのにゆっくり歩いて何を考えてる!反省してないのか!」
すかさず事情を説明しようと
「あの、…」と口を開くが
「何年何組で、名前は!そのラベルの色から見ると1年か!入学早々何を考えてる!」
すごい恐い表情で、すごく大きな声で怒鳴られた。
確かに恐いと聞いてたけど、頭ごなしに怒られたら怖くて反論もできない。
思わず涙ぐみそうになり固まっていると、

「せーんせ。この子悪くないよ。」
どこかで聞いた声がする。

パッと振り返るとさっきの彼が立っていた。

「またお前か!瀬戸春巳!」

瀬戸春巳。この人こんな名前なんだ。
って入学して2週間でもう名前覚えられてるし。やっぱり関わったらダメな人や。

「さっきこの子と自転車でぶつかって、それでこのこの子遅れただけだよ。」
「なんだその言い訳は!」
先生は疑って全く信じない。
「ほら、俺のチャリカゴまがってるだろ?
それにこの子の後ろの泥除けもいがんでるし。さっき坂道でぶつかったんだよ。な?」
彼が、こっちにむかってあいずちを求めてくる。
「本当なのか?」生徒指導の先生が私に聞いてくる。
私は、首を縦にコクコク降る。
「こんな坂の上に学校作るのが悪いんだよ。何人か、今までも怪我人でてるんじゃねーの?」
先生は黙っている。

その様子を見て彼、瀬戸春巳はまだ口を開く。
「もし、通学中に事故で怪我人がいっぱいでたら、学校側の責任になるんじゃねー?今回は怪我なかったからよかったけど。」意地悪そうに笑う。
まだ先生は反論してこない。

「大体、遅刻する奴には理由があるんだから、それ聞かずに怒るのもおかしいだろ。」
「じゃあ、お前がいつも遅刻するのは何でなんだ。」
「俺?俺はー」
「ただの寝坊」ニヤリと笑う。
「おまえはー!」
あの恐い生徒指導の先生が、なんかこの変な男のペースにのせられてる聞がする。私はそう感じた。
みんなから恐れられてるから、誰も反論しないしそれが当たり前になってるんだと思うんだけど。
この人はこの先生と怖くなさそうにしゃべってる。対等にしゃべってる。

「という訳で、この子には怒らないであげてよ。ついでに今日は俺も許してやって」
先生は納得はしていない様子だったが、
「さっさと行け」そう一言言った。

「さ、行こう」
彼が、歩き出す。つられて私も歩き出す。
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