Fun days

謝る

美桜は、気づいたら部室棟まで来てしまっていた。

最初は、体育館の外のベンチに座っていたのだが
何だかみんな見ている気がして、落ち着かなかった。
部室棟の外ベンチは落ち着くなあ。
さすがに日曜日は誰もいない。
吉岡もめずらしく、出かけていた。

知っている人が誰もいない、と思うと
家にいるような、素に戻った気持ちになる美桜だった。

彼女、かあ。
やっぱり、何かどきどきする。
何でどきどきするの?
…友達じゃないからじゃない?
心が答える。
確かに、ただの友達じゃない、とは思ってる。
でもそれが”好き”ってことなのかな?
…答えは返ってこない。
わかんない。
…わからないけど、嫌な気持ちじゃない。
ほわん、とした温かい気持ち。
まあ、いいか。
嫌じゃないからいいや。
浸っちゃえ。
…ふふふ。何だか笑えて来た。

すると、購買からの道を走ってくる人がいる。
…村田だ。
とっさに目をそらす。

「よかったー。いなくなっちゃったかと思った…」

息を切らしながら、村田が言う。

「ごめん、心配かけちゃったね」

そうだよね、こんな遠くまで
散歩に行くとは思わないもんね。

「うん…よかった…」

息を整えた村田は、意を決して言う。

「あのね、美桜。
 彼女だって言ったの、俺なんだ」

「…ああ、そうなんだ」

意外とすんなり受け入れる美桜。
もしかして気づいていたのかな。

「うん。俺が思わず言っちゃって、佐々木に相談したんだ。
 でも話が広がっちゃって、どうしようもないから、
 ちゃんと謝ろうと思った。」

頷く美桜。

「本当にごめん。大体わかってると思うから
 弁解はしない。このあと迷惑をかけないように、
 俺、美桜のこと守るから」

村田の言葉にどきっとする美桜。

「何かあったらすぐに言って。
 はっきり言っていいし、怒っていいから。
 俺、何でもする。帰りたかったら、送るし。
 …さみしいけど」

思わず笑う美桜。

「写真撮るって健吾と約束したから、それは無い。
 佐々木君、怒ってた?」

「うん。すごく怒られた。」

「想像できないな。怖かった?」

「すごく怖かった」

美桜に怒られたほうが良かった、という言葉は心にしまっておく。

「いいよ。今日だけね…」

美桜は村田から目をそらして続けた。

「…彼女になる」

安堵と、うれしさと、愛しさが混ざり合って
何だかよくわからない気持ちがこみ上げてくる。

「行こうか。休憩中の杏子ちゃんも撮らなきゃ」

そう言って、美桜は立ち上がった。
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