ドッペル・ゲンガー

邂×逅

「邪魔をしないでッ」

 殺されると思って目をつぶった瞬間、苛々した様子の"私"の声が聞こえてきた。

 何事かと思い目を開けると、そこには予想もしていなかった光景が広がっていた。

「大……吾……?」

 暗がりでも見間違えるはずなんてない。

 それは、包丁を振り上げた"私"の手を掴む大吾の姿だった。

「離せ……離してよッ……」

 身をよじりながら必死に抵抗する"私"を、大吾は穏やかな瞳で見つめていた。

 何が何だかわけが分からない。

 どうして大吾がここに……

「ちょっと、待ってやってくれよ」

 私に一度視線を移してから、大吾は掴んだ腕を背後へと力一杯振り抜いた。

「きゃッ……」

 短い悲鳴とともに"私"は反対側の塀へと背中を打ち付けてその場に尻もちをついた。

「悪いな……まだもう少しなら時間、あるだろ?」

 そう言って大吾がゆっくりと手にした鉄パイプを振りかぶった。

「やめて……やめ……ッ」

 鈍い音が辺りに響いた。

 一瞬の事で頭が追いついてこない。

 目の前には顔面を陥没させてぐったりとしている"私"の姿。

 鼻筋は変な方向へと曲がり、うっすらと開いた口から覗いた歯は、上あごの方の大半がなくなっていた。
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