続 でも、好きなんです
誰にも言えない
定時後、美穂との待ち合わせの店に向かった。

今日のお店は、少し洒落た鳥専門店だった。

予約された席へ行くと、美穂は先についていた。

「ごめん、ちょっと遅れちゃった。」

「全然大丈夫!」

もはやお互い規を使うこともせずに、好き勝手に飲み物や食べ物を注文する。

女友達とご飯は気楽でいい。

飲み物とサラダ、串などが運ばれてきて、二人で乾杯した。

仕事終わりの乾ききった体に、アルコールが染み渡る。

「あー、おいし。」

「ほーんと。仕事終わりの酒って最高。」

一息ついたところで、美穂に切り出した。

「実はね、、ついに、課長とそういうことになっちゃった。」

美穂は少しだけ驚いた顔をしたが、すぐに、やっぱりね、という顔になった。

「まあ、キスはしちゃってたんだから、時間の問題だとは思ってたけどね。

おめでとう…なのかな?

いや、おめでとう…じゃないよね。

えっと…なんて言えばいいんだろう?

こっちの世界にようこそ、かな?」

美穂は、苦笑まじりに言った。

「そっかあ…。

で、どう?

憧れの完璧イケメンだった課長と付き合った感想は?」

興味津々といった様子で、美穂は料理を頬張りながら楽しげに聞いてきた。

答えるほうの私は、ひとつひとつ、言葉を選びながら答える。

「結構…ズルい人なのかもしれない。」

「そりゃあ…ね。」

私の言葉に、美穂は一瞬言葉を詰まらせた。

「そりゃまあ・・・奥さんがいて、独身女に手を出す男なんて、まあ、みんな、ズルいよね。

・・・ま、私たちだって、被害者面なんかできないけど。

男がずるけりゃ、私たちは、強欲かな。

他人のものでもすぐに欲しがる。」

そこまで言って、美穂は、グラスの赤ワインを一口飲んだ。

「だけど・・・最初から、そんな暗いこといってて、大丈夫?

もう少し、はしゃいでると思ってたから・・・、意外。

まあ・・・わかるけどね。

私だって、結構頻繁に、ダークサイドに落ちるよ。

だけど、付き合いはじめの頃は、それでも楽しかったけどな。

愛美は・・・、違うの?

もう、つらくなってきちゃった?」

「う・・・ん。」

自分の気持ちをうまく説明できる自信がなかったけれど、私は美穂に話し始めた。

「嬉しかったよ。

嬉しかったけど・・・いざとなったら、なんか色々、不安になってきちゃって…。

課長のことは、もちろんすごく好きなんだけど、もっと関係が進んで、これ以上気持ちが大きくなったらどうなるのかな、って。

私、本当に、色んな覚悟できてるのかなって、すごく不安で・・・。

・・・時々、片想いだった頃のほうが幸せだったのかな、って思っちゃう。」

言葉にしてみて、改めて、自分のネガティブさに落ち込んだ。

「片想いの頃のほうが良かったって・・・、いかにもオタク女が言いそうな台詞だよ、それ。」

私の言葉に、美穂は苦笑混じりで言った。

そのとおりだ、と私も思った。
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