あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。



部屋を出てすぐ、目の前をバタバタと一人のメイドが、足首まである黒いメイド服の裾を掴んで走っていく。



「ちょっと!」

「はいっ! あ、まお様!」



呼び止めると、肩までの髪を三つ編みにしたメイドはこちらに気づいていなかったようで、慌てて急ブレーキをかけてつんのめった。



「何事? 今日何かあったっけ?」

「え! まお様お知りじゃあないんですか⁉︎」

「へ?」



メイドはあたしが知ってたと思ってるみたい。



「あたし、何も知らないけど……」

「えー! どうするんですか! 今日の主役なのに!!」



メイドは信じられないといった風に目を見開いて絶叫した。


動くたびに、三つ編みがぴょんぴょんと跳ねている。



「今日の、主役?」



ちんぷんかんぷんすぎて、頭がついていかない。



「申し訳ありませんが、何も知らないまお様に私から申し上げられません。 どうかお手数だとは思いますが、カカオ王子にお聞きになってはもらえませんか?」

「か、カカオに⁉︎」

「ええ。 私も準備があってもう行かなければならないのです。申し訳ございません。 それでは!」

「え、ちょっと!」



再び呼び止める間も無く、風の如く三つ編みメイドは去っていってしまった。


……昨日の今日で、カカオに会えと?


その瞬間、脳裏に昨日の夜のことが浮かび上がった。


あの、瞼を閉じた綺麗な顔を思い出す。


途端に身体が熱くなった。



「──ムリ!」



あたしの叫び声が、廊下中に響き渡った。



< 141 / 335 >

この作品をシェア

pagetop