あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。





 余計なことを考えていたそのとき、またゾクリと背筋が震えた。


 イヤだ。 この感覚。


 今、ひとりでいちゃいけない。


 誰かといないと。


 一応用心のため、身体を覆う普通の人には見えない透明な防御結界を張った。


 いくら空気中を漂う魔力の糸のような物を手繰ってもシュガーは相変わらず見つからないし、ゾクゾクと悪寒は止まらない。


 しかも、何かに導かれているような感覚……。


 気配は、そう。

 
 中庭の方からする。


 だんだん頭がポワポワしてきて、ぼんやりとしか考えられなくなった。


 そのときのことは、あまり覚えていない。


 どうやって中庭に行ったのかさえも覚えていない。


 けれど、気付けばあたしは中庭に立っていて、目の前には……。



「あなたは……」

「はじめまして、ウェズリアの魔女さま」

「っっ!」



 うやうやしくお辞儀をした相手に、あたしは思わず身構えた。


 だれ? この人。


 そして、なんであたしのことを知っているの?


 だって、このひとの瞳は、青くない。


 つまり、ウェズリアの住民じゃない……。


 彼女は、フワフワのドレスを着ていて、豪華な金髪をゆるく巻いている。


 お姫さま……?


 え?


 もしかして……。



「あなたが噂のローズ姫!?」



 素っ頓狂な声が出てしまった。


 姫のずっと浮かべていた微笑がピキッと固まる。


 あ……やっちゃった。
 

 けれど、姫はコホンと咳ばらいをし、微笑んだ。


花がほころぶような笑顔だ。


 この人は、きっと誰が見ても美人の部類に入る人だと思うはず。


彼女はドレスの裾を軽く持ち上げ、淑女の挨拶をした。


 
「はじめまして、わたくしはオスガリア帝国第一皇女 ローズと申しますわ」

「は、はぁ……」



あたしもぺこりとお辞儀をする。


 それは姫の完璧な挨拶に比べ、あまりにも不恰好でカッコ悪い。




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