刹那との邂逅
後編


 あれから3年の月日が過ぎた。




 その間に椎名蓮は変わり、再び多忙を極める素晴らしいアクターへと変貌していた。

 彼の演技は『一つ一つが丁寧で繊細』との高い評価を得て、昨年は助演男優賞を受賞。

 今年は『彼が主演を張る、最高の作品が生まれるのでは』とまで巷で囁かれている。

 その一方で、蓮の心は依然埋まらない穴を感じていた。

 彼の取り戻したいもの……それを取り戻すかのように仕事に勤しんでいる。けれど、手に入るのは称賛の声ばかりで、彼の心には何一つ響かなかった。

 ただ自分の存在が世間に広まることで、もしかしたらどこかで『スノウが見ているかもしれない』という期待だけを抱いて、ただただ邁進していた。けれど――


 「はぁ……」


 思わずため息を零してしまうほどの多忙ぶりに、ソファーに腰かけてからずるずると倒れ込んだ。

 何となく空けてしまう人ひとり分のスペース。その空間を見ながらフッと頬が緩む。

 馬鹿だと自分でも蓮は思っていた。想ったところで、会える保証なんてどこにもない。

 それどころか一生会えない可能性の方が高かった。


 『もう二度と現れませんから』


 そんな言葉を彼女が言っていたと、後になって思い出したからだ。

 そうして思い出すたび、どうして『二度と会わないなんて言うな』とでも言っておかなかったのかと後悔する。

 けれど、後悔こそ無駄なもので何一つ戻っては来ない。

 やはり――だからこそ、刹那、なのだろうか。

 けれどそれでも、もし。

 運命なんてモノが存在していたら、自分にもう一度あの日が取り戻せる時が来るのではないかと、儚い期待をしていた。

 出会いの方こそかなり偶然だったはずだ。それをもう一度臨むことなど、難しいに決まっている。

 そうは思っていても捨てきれなかった期待は、3年を過ぎ……もう脆く崩れそうになっていた。

 それこそ、スノウは……本当は存在もしないもので、ふわりとどこかへ消えてしまったのかもしれない。

 食品へ拘っていたことも、後になって蓮の想像を暗くしている。アレがもし、最後だとしたら――もう永遠に蓮の刹那は手に入らないのかもしれない。



 だからだろうか。まだ蓮は、世間と自分のずれを感じている。




 やはり自分の芝は、そこまで青くはない――と。
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