ある男の子と女の子の秘密のお話

次の日も、
その次の日も哲郎は…


電車には乗ってこなかった。



学校謹慎になった生徒は
早朝に登校することに

なっているみたい。



みんなの話し声が
やたらと耳に入ってくる…




「あれ?哲郎いねーじゃん!」



「サボりじゃない?w」 





哲郎は、本当に誰にも…



学校謹慎になっていることを
言っていないみたい。



哲郎が、あの時…

職員室の前で言った




『いや!友達には
言わなくていい…』




とゆう言葉が
私の頭の中でリピートしてた




なんなんだ!?あの人。



友達に…

本当の事を言えない罪悪感?


モヤモヤする。




私は、哲郎と仲良しでもないし

ほんとに偶然
職員室の前を通っただけなのに

私にナイショの話しを
するなんて!




意味もわからなくて
モヤモヤ…モヤモヤ…


…………



1週間もたてば

学校のあちこちで哲郎の名前を
聞くようになった…




「風邪なのかな?」




「昨日、家に電話しても
あいつ、いなかったぞ!!」


みんな心配している…



当たり前だよ!
人気者の哲郎くん!




そりゃ、心配するでしょぉ…
友達なんだから!




私は、だんだんと
哲郎に腹が立ってきた



モヤモヤ感が溢れそうだった…


この頃から
私の性格は変わっていない



思い立ったら!即実行 ♪




その日の放課後は
一緒に帰る友人達に

先に帰ってもらった。


目指すは謹慎部屋しかない!



生徒がみんな帰った学校内は

グランドから 
部活生の声だけが聞こえてくる…



謹慎部屋は校舎の3階の隅にある
職員室の真上。


哲郎が本当に
謹慎部屋にいるなら

今の時間は
プリントの山を解いているはず!


私は、なるべく
足音を立てないように

3階までの階段を
少しずつ上がる



人の気配がまるで無くて…



思っていた以上に

自分の上履きの音が
廊下に響いた!


ペタペタ音がする・・・




そっと、自分の上履きを脱いで
廊下の脇に隠した。


泥棒の気分……



靴下で、つま先立ちを
しながら歩いて



謹慎部屋向かう

足先が冷たい・・・



謹慎部屋のドアまで来たら



ドアには外からかけられる
簡単な鍵がついていた…



これこそ、本当に謹慎部屋!!



十字になってる
右に回すだけの簡単な鍵だけど。


ドアにある小窓から
コッソリ部屋の中を覗いた……



広い部屋に1人で机に座って
退屈そうに、クルクルと
シャーペンを回す哲郎が見えた!



哲郎の
学校謹慎は本当だった。




私は、小さな音で
コンコンッと、ドアを叩いた。



哲郎は、顔を上げて
ゆっくりと、こっちを見た…


しばらく、私の顔を見て…





クスクスと笑いながら
哲郎は立ち上がって

ドアの方に歩いて来る



ドアの向こうの哲郎が
小さな声で言った




「ヒカリ!鍵!
カギを!あ・け・て!」



私は、周囲に人がいないことを
確認して鍵を右に回した。


哲郎はドアを少しだけ開けた




「ヒカリ…どうしたの?w」





「どーしたのじゃないでしょぉ?
友達がみんな心配してるよぉ!
話をしてないの??」




哲郎は
吹き出しそうに笑っている

声を押し殺すのが大変そう。





「ヒカリ!声!静かにしてw」




そうだった、謹慎部屋の真下は
職員室だった!!


私も、思わず口に手を当てて





「あっ…ごめん…!!w」





笑いを堪えながら言った




哲郎が、私に向かって
笑っている顔を

はじめて見た気がした。





哲郎の笑顔を見ていたら

なぜか悪い人だとは
思えなかった…



愛想がないだけか…?


なんとなく、そう思った

たんなる、私の直感…?



哲郎は笑いを堪えきれないようで

床にあぐらを組んで
ペタンと、座り込んだ。


そして

私の目をじっと見てる ……
いつもと違った、優しい目。





「ヒカリ…w
よく、ここまで来れたね?
怖くなかった?」





「はじめて泥棒の気分に
なったよ…哲郎のせいで。」




「…てか、靴下?w」





「あのね…上履きがペタペタ鳴るの!
途中で脱いできたのー!
チーちゃん達もみんな心配してるよ
知ってる?」





コソコソ話しが続く…
あまり声が聞こえない…


私は、体の半分だけ
ドアに入った






「ヒカリ…本当…俺、苦しくてw」





「どうしたの?!
プリント終わってないの?」




「ヤバイ…天然すぎる!w」





哲郎は床に転がって笑ってる

人の気も知らないで…




いや、いや、違う!!
哲郎はいつも

成績は上位だと聞いていた!





「もう!心配して損した!」






「ごめん、ごめん!w
サトルには、ちゃんと話をしてるよ…
謹慎部屋にいること。
それに…サトルには
ヒカリにしか、教えていないことも
ちゃんと、話してるから…。」




ヒソヒソ話のせいか
哲郎の言っている意味が

よくわからない。


とにかく、サトル君は知ってるんだ!
って、少しびっくりした


サトル君は

何も言ってなかったけど……






「なんでナイショ?
そんなに、悪い事した訳じゃ
ないんでしょ?タバコ…?」



この頃は、興味本位で
タバコを吸っている子は

たくさんいた




「俺…騒がれるの苦手なの
静かなのが好きなだけ。」






いつも、みんなに囲まれて
楽しそうに見えた…

哲郎の意外な答えに

私は黙りこんでしまった。






「サトルに聞けばわかるよw」




「うん…わかった。」




少しだけ自分の頭の中を
整理する時間が必要。



私は、哲郎のことを
よく見てなかったのかもしれない…



哲郎は、また
私の目をじっと見ながら言った






「それよりも!怖くなかったの?
ヒカリ…こんな部屋に
女の子1人で来たら危ないよ…
これ、本当!わかる?
違う人がいたら大変だよ!」






「…うん、ゴメン。」





私は何だか

深妙な気持ちになってきた


外から鍵がかかる…

謹慎部屋なんだから

来ちゃいけなかった?





「違うよ…謝らないで…w
ここに来たのが見つかったら…
ヒカリが、怒られちゃうんだよ!
わかる?」





「うん…わかる。」






なんだか、自分の行動が
軽率だったとわかって

ちょっと、落ち込んでしまう。





「ヒカリ!こっち見て!」




哲郎はそう言って
優しい目をして、私を見た

そして、床に座ったまま


私の左手の人差し指を

そっと…握った…





「…ヒカリ!これは?怖くない?」




「……うん…怖くないよ。」






「もう、来ちゃダメだけど…
ヒカリが来てくれたのは
嬉しかったよ!ありがとう…」





「うん…私こそ
いきなり来てゴメンね…」





哲郎はニッコリと笑った




「ほら!ヒカリ…
見つからないうちに
はやく戻らないと!w」




「うん!そだね!。」




そう言って…
ドアから離れようとした時




私の左手の人差し指に
さっきより

少しだけ…力が加わった

哲郎の手が、私の指から離れない。





「哲郎…?どうしたの?」 





「………」




「哲郎?」




「あと、10秒だけ。このままで…」




哲郎は、優しい目で
私の指先をじっと見つめていた



その優しい目をみていたら

私も、哲郎の手を
振りほどく気持ちには
なれなかった…




10秒だけ………すごく短い時間



でも、哲郎の手が
すごく暖かかった

10秒を…
数えていたわけじゃないけど



でも、本当に短い時間



哲郎は、私の左手の人差し指を
そっと離した…

そのまま、哲郎は
床から立ち上がって





「見つからないうちに
はやく戻って…w」




って、言いながら…

私の肩を少し押して
ドアの方に方向転換させた。


ほんの一瞬
私は背中に哲郎の体温を感じた



それは、フワッとした感覚で



前を向いていた私には
自分の背中に何が起こったのか

わからなかった……



哲郎の方を振り向いた時には




「ヒカリ…今日はありがと!」



と、言いながら
哲郎は謹慎部屋のドアを閉めた。



ドアの小窓からは
もう、哲郎の姿は見えなかった。



今の背中の
フワッとしたのは、なに??


そんな事を考えながら…




靴下のまま
自分の教室に向かって階段を下った。

考えることがたくさんあって



自分の上履きを
隠していた事を忘れてしまって

1度、また、廊下を戻って
上履きを履いた。


自分の足の動きが止まった…



あの時、確かに
背中全体に哲郎の体温を感じた

特に、首元…
哲郎の呼吸を首元に感じた


フワッっと抱きしめられた?

哲郎は私を方向転換させながら
そっと抱きしめたの?


いや…抱きしめたというより
包み込まれた感じだった


フワッっと…

だから、首元に哲郎の呼吸を感じた

間違いなく…

私の長い髪に
哲郎の息がかかった……。






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