暗闇の恋
晩御飯は宅配ピザにした。
食べた後二人でテレビを見た。
内容が全く入ってこなかった。
あれから考えているけど答えが出ない。
歩はもう覚悟を決めたように思える。
じゃ俺も覚悟を決めるべきなのか?
初めてではない。一応経験はある。
高校二年の夏。
17歳の俺は11歳の小学生の歩を好きでいることが嫌で、その想いを忘れたくて、その想いから離れたくて、告白してきた好きでもない子と付き合って…その子と初めてエッチをした。
してから自分のしたことを後悔したんだ。
悪いことしたと…その相手の子にじゃなく。歩に…。俺の想いはそんなものでどうにかなるほど軽い物じゃないことはわかっていた。
だから、歩を裏切った様な気持ちになったんだ。
その歩が俺を受け止めてくれた。
歩はきっと初めてだ…。
その相手が俺でいいと思ってくれたんだ。
俺も覚悟を決めないと…。
でも大事にしたい。その想いか交互に頭に浮かぶ。

「歩…お風呂入る?」
「うん…。」
「待っててお風呂してくるから。」
俺は浴室に入って浴槽を洗う。
俺と親父の二人暮しで、親父は出張が多い。
殆ど一人暮しみたいなものだ。
だからいつもシャワーで済ますことが多い。
お風呂を入れるなんていつぶりだろう…。
しかもそこに歩が入る…。
歩が泊まりに来ることは珍しいことではない。
母さんが生きてた頃はよく泊まりに来てた。
といっても俺が中学生の時だから、もう10年も前になる。
10年振りに歩がこの家に泊まる。
あの幼い時とは違うドキドキだ。
お風呂を沸かし終えてリビングに戻る。
「虎ちゃん…着替えなんだけどなんかある?」
「俺のでいいならあるけど…」
「うん。いいよ。ありがと。先入っていい?」
「うん…。じゃ用意して持って行くよ。」
「わかった。」
そう言って歩はお風呂に向かった。
しまった。急いで用意して持たせればよかった。
シャツとスエットを用意して脱衣所に入る。
さっきまで着ていた服が綺麗に畳まれカゴに入ってる。
その畳まれた服の間から下着が見える。
そこは理性が止めた。
「虎ちゃん?」
気付いた歩が声をかけてきた。
「あぁここに着替え置いておくから。」
「うん…ありがと。」
湯船に浸かってる水音がする。
このままここに居たら浴室の扉を開けてしまいたくなる。
出て行こうとしたら歩が呼び止めた。
「虎ちゃん…。」
「ん?なに?」
「一緒に入る?」
「なっなに言ってるんだよ!」
慌てると笑い声が風呂場に響いた。
「ごめん!冗談です。」
少し困らせてやりたくなって浴室の扉を開けた。
「キャッ!!」
「俺は男だぞ。今の冗談にならないからな。」
「…うん、わかった。」
「じゃぁな。ちゃんと暖まるんだぞ。」
そう言って扉を閉めた。
脱衣所から出て崩れる様に座った。
頭にこびりついた。
少しだけど…肩ぐらいだけど…歩の裸を見た。
やばいなぁ…今日耐えれるか自信がなくなってきた。

少しして歩がお風呂から上がってきた。
俺の服は歩に大きかったみたいだ。
少しダボダボしていて、肩が見える。
丈は太もものあたりまで伸びている。
とてつもなく可愛い。
俺はシャワーだけにした。
歩が浸かった湯船には入れなかった。
上がる時冷たいシャワーを浴びた。
ずっと頭に熱を帯びてるのを沈めたかった。
脱衣所から出るとリビングの明かりは消されて暗かった。
二階に上がると自分の部屋から少しの光が漏れていた。
「歩?」
ドアを開けた。
部屋の電気は消されてベッドのそばのヘッドライトが点いていた。
「虎ちゃん…部屋全然変わってないね。」
歩はベッドに座っていた。
「そうかな?」
「うん、ベッドとか机の位置とか変わってない。」
「そうだな…。」
俺は机の前の椅子に腰掛けた。
「虎ちゃん…」
「うん…なに?」
「私ね、虎ちゃんって呼んだ時の虎ちゃんの返事が好き。優しく聞いてくれる返事が好き。ずっと虎ちゃんは私に優しくしてくれたよね。ピアノ教室で虐められた時も、帰り道にいる犬が怖くて通れない時もいつも助けてくれた。妹の様な存在と思ってるんだって勝手に思ってた。虎ちゃんの愛情がまさかLOVEなんて思ってなかった。ずっと気付かないで、ごめんね。」
そう言うと歩は両手を広げた。
俺は椅子を離れ歩の隣に座って歩と抱きしめ合った。
「歩が謝ることなんてないよ。俺が勝手に好きだったんだ。」
「私…虎ちゃんの気持ち嬉しかった。こんな私でいいの?」
「こんなって目の事言ってるの?」
腕の中の歩が小さく頷いた。
「そんなことなんの意味がある?俺にとって見えない歩はなんの問題もない。そのままの歩が俺の愛する人だよ。」
離れると歩の目から涙が零れ落ちた。
親指の腹で涙を拭う。
「キスしていい?」
「うん。」
俺は歩にキスをした。
ヘッドライトに照らされ壁に映る影が重なる。
「初めてキスしちゃった…。」
はにかんだ笑顔が愛おしい。
「歩…好きだよ。」
「うん…。」
ゆっくりと歩の体を押し倒した。
「虎ちゃん…灯り消してくれた?」
「うん、消した。」
嘘を付いた。
電気なんて消すわけがない。
やっと好きな女を抱けるんだ。
全部見ていたい。
シャツのボタンに手をかけた。
ゆっくりと一つ、また一つと外していく。
もう一度キスをした。
そのまま首筋にキスを滑らしていく。
キスをしてる唇に歩の緊張が震えとなって伝わる。
シャツのボタンを全て外した。
シャツから覗いた歩の肌は綺麗でたまらなかった。
ヘッドライトに照らされた歩の体はしなやかにベッドに横たえてる。
それを見ただけで、たまらなくなる。
「虎ちゃん…?」
離れて見ていた俺を不安な声で呼ぶ。
「歩…凄く綺麗だ。」
「やだぁ…。」
恥ずかしがって顔を隠す。
「隠さないで…ちゃんと見せて。」
俺は顔を隠す手を退けた。
シャツを脱がした。
数時間前に服の上から触ってしまった膨らみが目の前にある。
ゆっくりとシャツを元に戻しボタンを掛けていく。
「虎ちゃん?」
「今日はやめよう。」
「なんで?私魅力ない?」
「そんなことあるわけないだろ!今すぐめちゃくちゃにしたいさ!」
「じゃなんで?」
「大事なんだ。歩も歩の心も体も全部大事なんだ。だから大切に大切に育みたい。今日想いが通じた。そのままエッチなんて勢いみたいで嫌なんだ。」
「勢いなんかじゃないよ。私…虎ちゃんだから…」
「わかってる。歩が魅力ないわけでもなんでもない。歩の決心もわかってる。でも俺が歩を大事ににしていきたいんだ。そんななに焦ることでもないだろ。それともそんなに俺に抱かれたい?」
「やだぁ!!」
歩は恥ずかしがって頭まで布団をかぶった。
その上から被さるように歩にダイブした。
子供の様に二人で戯れ合う。
そのまま俺たちはシングルベッドで落ちない様にひっついて眠りについた。
俺の腕枕で眠る歩の寝顔を見れる日が来るなんて思ってもみなかった。
歩はすぐに寝たのだけど、無防備すぎる。
シャツは第3ボタンまで外れてるから胸の谷間が俺を誘惑する。
歩を抱かなかった事を、すぐさま後悔する。
時折寝返りをうつ。
俺を抱き枕のように抱きつく。
誰か一層一思いに殺してくれないか?!
生き地獄だ。
自ら選んだ事とはいえ、こんなにも辛いとは思わなかった。
明日仕事を休もう。
このままじゃ寝れそうにない。

案の定そのまま朝を迎えた。
6時になって歩を起こした。
一度家に戻ると言っていたからだ。
「おはよう。」
「う…ん……おは…おはよう」
そう言うと大きい欠伸をした。
寝起きの歩も可愛い。
「ほら、一旦家に帰るんだろ…送って行くから着替えたら一階に来なよ!」
「うん、わかった。」
程なくして歩が着替えて下りてきた。
送るといっても5件隣の道を挟んだ向かい側にあるのが歩の家だ。
「じゃ行こう。」
「やっぱりいいよ。一人で帰れるから…。」
「そんなに俺と付き合う事になったの知られたくない?」
「そうじゃない。なんか恥ずかしいんだもん。」
「お願い。ちゃんと挨拶しておきたいんだ。」
「わかった。」
二人で家を出た。
俺のシャツの裾を掴んで歩く。
歩の家のインターホンを鳴らした。
玄関のドアが開く。
おばさんは俺の母親が死んでからいつも気にかけてくれた、もう一人の母親のような存在だった。
だから尚更ちゃんと挨拶しておきたかった。
「あら、おはよう。初めての朝帰りの気分はどう?」
そう言っておばさんはイタズラっぽくニカっと笑った。
「もうっ!お母さんっ!」
歩は恥ずかしがっておばさんに怒った。
「ほら、入って。」
家に入るように言われた。

「おばさん…俺、歩のこと大事にするから。」
俺は玄関先でおばさんに宣言した。
「うん。わかってる。虎ちゃんにならどんどん預けちゃう。これでおばさんも恋が出来るわ!」
「えっお母さん?!」
「冗談よ!」
おばさんは笑った。
そして、歩に聞こえないように俺の耳元で囁いた。
「実ってよかったね。」
「ありがと…」
俺も歩に聞こえないように言った。
「虎ちゃんも朝ご飯食べて行く?」
「ううん、送ってきただけだから、帰るよ。」
おばさんは歩を家の中に入れ玄関の外に出て見送ってくれた。
「あっちょっと…」
歩き始めた俺を追いかけてきた。
「おばさん、どうしたの?」
「あの子は大人になったの?」
またイタズラっぽい笑顔を浮かべる。
「なっまだです!」
俺も何を正直に答えてるんだ…。
「な〜んだ。じゃあの子をよろしくお願いします。」
そう言って頭を下げ、じゃぁねと帰って行った。
家に着いて職場に風邪と嘘を付いて電話して、俺はそのままリビングのソファで深い眠りに付いた。
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