暗闇の恋
二人で晩御飯を食べた。
虎ちゃんが宅配ピザをとってくれた。
こんなに味なかったっけと思うほど、緊張で味がわからない。
その後一緒に、並んでテレビを見た。
繋がれた手がたまらなくドキドキする。
時々虎ちゃんは私の手のひらを親指で触る。
いつキスをしてくれるのか、いつお風呂にはいればいいのか、どうやってしたらいいのかわからないことだらけでテレビの内容なんて全然入ってこなかった。
ずっと私が好きって言ってたから、きっと虎ちゃんも初めてだよね?
初めて同士で大丈夫なのかな?
あぁこんなことなら、そっちも勉強しとけばよかった!
理沙は恋人がいて経験済みだ。
話してくる恋愛話をもっとちゃんと聞いておけばよかった。
でも私は恋愛にまだまだ興味がなかった。
なのに急にこんなにいっぱいやってくるなんて思ってもみなかった。
考えても自分がどうするべきなのかが答えがでない。

急に虎ちゃんが話しかけてきた。
お風呂の準備をしてくると立って行ってしまった。
今のうちにと急いで携帯を手に取る。
お風呂場から水の音が聞こえてきたのを確認して理沙に電話をした。
「理沙!!」
「うん?どうした?」
「今虎ちゃん家なの。それで、泊まることになったんだけど、どうしたらいい?」
「はぁ話が全く見えないんだけど?」
「詳しいことは明日話すから…」
「今そばに虎生さんいるの?」
「ううん、お風呂入れに行った。」
「そっか…覚悟はしてるんでしょ?」
「うん、それはもちろん!じゃなきゃ泊まれないよ…」
「じゃ虎生さんに任せたらいいよ。」
「でも、ずっと私が好きだって言ってたから虎ちゃんも初めてかもしれない。」
「そうだとしても任せたらいいって。」
「はいはい!考えない考えない!なるようになるから。」
「でも…」
「でもじゃない!…歩?」
「なっなに?」
急に理沙の声色が変わる。
「大丈夫だから。虎生さんなら歩を大切に大事にしてくれるから。」
「なんでそんなこと思うの?」
「歩だけだよ!」
「なにが?」
「虎生さんの気持ちに気付かなかったのは…」
「えっ理沙知ってたの?」
「うん、初めて会った時から、あぁこの人歩が好きなんだってすぐわかったもん。…虎生さんってわかりやすいよ!それに気づかない歩は鈍感すぎ!」
そう言って理沙は笑った。
「そうだったんだ…。」
「だから今は正直歩のことより、虎生さんよかったねって思ってる。」
「うん…」
「だから、歩は虎生さんに任せたらいいのさっ!」
「わかった。そうする…ありがとう。理沙の声聞いて少しホッとした。私頑張ってくる!!」
「うん、明日の報告楽しみにしてるから!!」
お風呂場のドアの音がした。
「うん、虎ちゃん戻ってくる。じゃ明日。」
バイバイと言い合って電話を切った。
虎ちゃんがリビングに戻ってきた。
着替えがあるか聞くと持って行くと言ってくれたから先に入ることにした。
脱衣所に入ると水の音がする。
服を脱いだ。
自分の体がどんななのかが確認出来ない。
手で触るのと見るのとでは違いがあるのだろうか…。
階段を下りてくる音がする。
急いで浴室に入った。
湯船を触ると入れるぐらいまでお湯がたまってる。
私はゆっくり湯船に浸かった。
「気持ちいい…」
脱衣所に入ってくる音がする。
「虎ちゃん…」
なにと返事をしてくれた。
一緒のはいる?と冗談を言った。
ガラス戸越しに慌てる声がする。
思わず笑ってしまった。
すると虎ちゃんが勢いよくガラス戸を開けた。
咄嗟に身をががめた。
見られた??
そりゃあとで見られるんだろうけど…。
「俺は男だぞ。今のは冗談にならないからな。」
と、虎ちゃんは言った。
改めて男だぞ。なんて言われたら尚更虎ちゃんを意識してしまう。
虎ちゃんはちゃんと暖まるんだぞと言って戸を閉めて出て行った。
ヤバい…のぼせそう。
湯船から出て体を洗う。
頭を洗う。
虎ちゃんの匂いはこのシャンプーの匂いだと思った。
今日は虎ちゃんと同じ匂いに包まれるんだ。
お風呂から上がって、髪と体を拭いた。
虎ちゃんが用意してくれたシャツを着たら大きかった。
袖を持って匂いを嗅いだ。
いつもと同じ虎ちゃんの匂い。
虎ちゃんに抱きしめられてる気持ちになる。
ドライヤーの場所がわからないし、タオルの場所もわからない。
髪は少し濡れたままだけど仕方がない。
脱衣所を出てリビングに行く。
入れ替わりで虎ちゃんがお風呂に行った。
私はリビングの電気を消して二階に上がった。
小さい時と同じ部屋。
ベッドの場所も机場所も変わらない。
ベッドに座る。
木のベッドからパイプベッドに変わってる。
サイドには小さなテーブルがある。
触って行くとテーブルランプがあった。
カチッと音がした。
電気点いたかな。
ベッドに寝転んで考えてみた。
ここで虎ちゃんと…ダメだ頭真っ白。
理沙の言うとうり何も考えないで虎ちゃんに任せよう!
一階から上がってくる音がした。
飛び起きベッドに座り直す。
ドアの開く音と同時に虎ちゃんが私の名前を呼んだ。
虎ちゃんはまた私と距離をとって前の椅子に座った。
「私ね、虎ちゃんって呼んだ時の虎ちゃんの返事が好き。優しく聞いてくれる返事が好き。ずっと虎ちゃんは私に優しくしてくれたよね。ピアノ教室で虐められた時も、帰り道にいる犬が怖くて通れない時もいつも助けてくれた。妹の様な存在と思ってるんだって勝手に思ってた。虎ちゃんの愛情がまさかLOVEなんて思ってなかった。ずっと気付かないで、ごめんね。」
そう言うと私は両手を広げた。
丸ごと虎ちゃんを抱きしめたかった。
「歩が謝ることなんてないよ。俺が勝手に好きだったんだ。」
そう言って虎ちゃんも私を抱きしめてくれる。
「私…虎ちゃんの気持ち嬉しかった。こんな私でいいの?」
「こんなって目の事言ってるの?」
私は小さく頷いた。
「そんなことなんの意味がある?俺にとって見えない歩はなんの問題もない。そのままの歩が俺の愛する人だよ。」
虎ちゃんは当たり前の様に言った。
虎ちゃん…それって私にとっては奇跡なんだよ。
涙が溢れた。
悲しいからとか、嬉しいからとかじゃない。
ただただ虎ちゃんを想うと溢れた涙だった。
虎ちゃんはその涙を拭ってくれた。
「キスしていい?」そう聞かれて
「うん。」と答えた。
ゆっくり顔が近付いて唇に触れた。
優しい、温かいキス。
「初めてキスしちゃった…」
凄く恥ずかしい。
自分がどんな顔をしてるのか想像が出来ない。
「歩…好きだよ。」
いつもより何倍も優しい声。
でも何倍も男の人を感じる声。
虎ちゃんが私を押し倒す。
虎ちゃんに任せたらいいんだ。
あっ電気…そう思って虎ちゃんに聞くと消したと嘘をつかれた。
電気を消した音はしていない。
でもいいや…虎ちゃんに私の全部を見て愛してもらえるならいい。
シャツのボタンに手がかかる。
一つ一つ外されていく。
またキスをされた。
さっきのキスとは違うキス。
キスに種類があるなんて思ってもみなかった。
そのまま首筋にキスをされた。
思わず声が出そうになった。
出ないように口を押さえた。
不意に虎ちゃんの唇が離れた。
なに?なんで何もしないの?
沈黙が怖い。
「虎ちゃん…?」
「歩…凄く綺麗だ。」
そう言われて何をしてたか理解出来た。
虎ちゃんは離れて私を見てたんだ。
途端に恥ずかしさで顔を隠す。
きっと今の私は凄い変な顔になってるに違いない。
「隠さないで…ちゃんと見せて。」
そう言って虎ちゃんは私の手を掴んだ。
シャツを脱がされた。
今…私…裸を見られてる。
そう思うと顔から火が出そうになるくらい恥ずかしい。
でも虎ちゃんはシャツを戻しボタンをかけはじめた。
そんな…私魅力なかったんだ。
虎ちゃんをそういう気持ちにさせれなかったんだ…。
やだ…泣いちゃいそう。
「虎ちゃん?」
「今日はやめよう。」
やっぱり…。
「なんで?私魅力ない?」
「そんなことあるわけないだろ!今すぐめちゃくちゃにしたいさ!」
その言葉凄い威力だよ!
「じゃなんで?」
虎ちゃんは私の両肩を持って
「大事なんだ。歩も歩の心も体も全部大事なんだ。だから大切に大切に育みたい。今日想いが通じた。そのままエッチなんて勢いみたいで嫌なんだ。」
それ反則だ。そんな事言われたらますます愛おしくなる。
「勢いなんかじゃないよ。私…虎ちゃんだから…」
「わかってる。歩が魅力ないわけじゃでもなんでもない。歩の決心もわかってる。でも俺が歩を大事にしていきたいんだ。そんなに焦ることでもないだろう。それともそんなに俺に抱かれたい?」
悪戯っぽく言われて恥ずかしくて布団をかぶった。
私たちはひっついて眠った。
焦ることはない。
虎ちゃんの言う通り、この愛を大切に育もう。
私は虎ちゃんの胸の中で寝た。
こうなったことに少しの安心と少しの残念さを感じたけれど、安心した方が大きいのかすぐに寝てしまった。
誰かの腕枕で寝れるなんて…それが虎ちゃんなんて私は幸せ者だ。

朝になって虎ちゃんに起こされ目を覚ました。
私が着替えるからと一階に下りていく。
いいと言っても挨拶したいと言って聞いてくれない。
私は諦めて二人で家に帰った。
意外と普通に出迎えてくれた。
私は朝ごはんを食べて学校に向かった。




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