小さなキミと
お互いに相手を睨み付け────先に服部がプイッと顔をそむけた。


「ほら何で目ぇ逸らすの? ねぇ服部」


あたしが服部の顔の正面に回り込むと、彼はあたしに今度は背を向けた。


「もう!」


若干ムカついたので、あたしは意地でも視界に入ってやろうと躍起になった。


服部も意地になったのか、頑なに顔を背け続けた。


業を煮やし『力技で顔をこっちへ向けてやろう』と考えたあたしが伸ばした腕を、服部がガッチリ掴んでガード。


その結果取っ組み合いに近い形になり、お互い無駄に汗をかくことになった。


彼と似たような小競り合いをどこかの教室で繰り広げたのは、つい1カ月ほど前の事だ。


ちなみにバス停にはそれなりに人の列ができていた。


そしてあたしたちの前や後ろに並ぶ人たちに、白い目で見られていることに気が付いたのはあたしの方が先だった。


「服部……あたしたち見られてるよ!」


「知ってる!」


言いながら、あたしの腕と服部の手がプルプル震えている。


その様子はさながら腕相撲の勝負際のようだった。


だけど服部の馬鹿力には到底かなわなくて、あたしは1ミリも腕を動かすことが出来なかった。


「いい加減にしろよお前寝坊したくせに!」


「うるさいうるさい!」


意地になったらもう自分では止められない。


ところで“今日1日忠実に彼に従う”なんてことを心に誓ったのは一体誰だったっけ。

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