小さなキミと

酔う






「おーーーーい、服部ぃーーーー」


カウンターに突っ伏した背中に大声で呼びかけるけれど、彼からの反応は無い。


「あー、やっぱアイツ完全にオチてますね」


あたしは会社員風の若いお兄さんに向き直って、「まぁ知り合いなんで大丈夫ですよ」と言葉を足し、お会計を再開した。


「すいません、ウチの上司が無理に飲ませちゃって」


お兄さんが申し訳なさそうな顔で言った。


肩には泥酔したその上司を担いでいる。


「いえいえ、お兄さんも大変ですね」


あたしの視線で、上司の事を指したのが分かったらしい。


彼は苦笑いした。


「まぁ、これも仕事のうちなんでね。
こんなんだけどさ、この人いつもしっかり奢ってくれるんだよ」


「そうなんですね」


相づちを打ちつつ、あたしは上司の持ち金らしい1万円札を受け取った。


「えーっと、少々お待ちくださいね」


お釣りの札を数えていると、お兄さんがフッと笑った。


────え、今何か笑う要素あった……?


軽く戸惑うあたしに、お兄さんが一言。


「キミは気づいてないかもしれないけど、本当に彼氏に愛されてるよ」


「……は、はい?」


キョトンとするあたしを見て、お兄さんはまたクスクス笑う。


「知り合いって言ったけど本当は彼氏でしょ、あそこで寝てる彼」


────うわっ、バレてる。な、なんで?


母が服部を店へ引きずり込んで行ったあの時、このお兄さんはまだ店に居なかったはずなのに。

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