絶対やせて貰います。

「父さん……」

私の視線を追っていたのか、旭君がポツリと呟いた。

やっぱり旭君のお父さんだったんだ……

声を掛けるのかなと思っていたら

「こいちゃん行こう」と私の家に向かって歩き出す旭君。

何か言った方が良いのかも知れないけど、なんて言ったらいいんだろう……

沈黙が重くて、家までの距離がやたらと長く感じてしまう。

「こいちゃん『ダイエット面倒臭いなって思ってない?』ってさっき聞いたよね」

「うん……」

唐突に切り出した旭君はお父さんの事には触れずに話を始めた。

「俺が太り出したのはサッカーが出来なくなって運動不足なのに食べる量が変わらないどころか、半年前位から家で殆ど食事をしなくなった父さんの分まで食べてたのが原因なんだよね」

「そう……だったんだ……」

切なそう表情で打ち明けてくれた旭君に気の利いた事も言えない自分がもどかしくてならない。

「会社で部署異動があって慣れない仕事で毎日遅くまで残業しているって聞いてたけど……

家で食事をしないのは何か理由があるはずなんだ、以前の部署で残業続きの時でも帰ってきたら母さんの作った食事は必ず食べてたから」

無言で『うん、うん』と頷きながら話に耳を傾け続ける。

「母さんは家で食事をしない父さんの分まで必ず料理を作る……

もう殆ど意固地になってるとしか思えなくて心配だったけど俺もどうしたら良いのか分からなくて

母さんを悲しませないように父さんの分まで無理してでも食べてた……

何も解決しないのに情けないよね」

旭君は自分を卑下する言葉を口にするけど、私だってその立場になったらどうしたら良いのか分からなかった筈だから……

分からないながらもマリアさんを悲しませないように無理をして食事をする旭君の姿を思い描けば、その優しさが痛くて胸を締め付ける。

< 140 / 305 >

この作品をシェア

pagetop