マネー・ドール -人生の午後-
「東京に行きたい」
鑑別所から出た将吾は、家を出て、住み込みで、鉄工所で金物職人の修行をしていた。私達は、本当は会っちゃいけなかったけど、時々、オトナ達の目を盗んでは、二人で会っていた。
「東京?」
「奨学金ゆうのがあるんよ。それもろうたら、大学にタダで行ける」
「広島を、出るんか?」
「そうや。こげなところ、もう、住みとうない。東京行って、キレイな服着て、ええ会社に就職して、お金持ちになるんや」
将吾は、私をじっと見て、
「俺も、行く」
彼は、迷わずに、そう言った。
「俺も、真純と一緒に東京へ行く」
将吾は将吾で、働いたわずかなお給料を、父親に、むしり取られていて、家は出たのに、何も変わらない生活に、憔悴していた。
私達は、閉鎖的で、暗い、重苦しい故郷を捨てて、東京での新しい生活に、思いを馳せた。
彼は一生懸命働いて、私は一生懸命勉強して、私達は、二人で、逃げるように、故郷を、親を、それまでの十八年間を、捨てた。

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